生成AIの進化を支える「シリコンフォトニクス」技術の最前線:研究動向を徹底分析

生成AI(Generative AI)

生成AIを支えるデバイス技術のグラント・論文・特許

生成AI(人工知能)の目覚ましい進化は、私たちの生活やビジネスに大きな変化をもたらしています。しかし、その裏側では、大量のデータを処理するために膨大な電力が消費されており、データセンターの電力問題が社会的な課題となっています。この課題を解決するための鍵として、「光電融合」という技術が注目されています。

アスタミューゼ株式会社は、この光電融合技術の中でも特に重要な「シリコンフォトニクス」に焦点を当て、研究開発の動向を詳細に分析したレポートを発表しました。このレポートは、グラント(競争的研究資金)、論文、特許、スタートアップ企業に関するイノベーションデータベースを基に作成されており、今回はその中からグラントと論文の分析結果をAI初心者の方にも分かりやすい言葉でご紹介します。

光電融合とシリコンフォトニクスとは?

光電融合とは、電気信号を光信号に変換して情報をやり取りする技術を指します。電気と比べて光は、遠くまで情報を送る際の損失が少なく、エネルギー効率も優れています。特に、送る情報量が多くなるほど、この光のメリットは大きくなります。

インターネットが普及し、クラウドサービスが当たり前になった現在、データセンター内のサーバー機器間でも光通信が使われるようになりました。そして、生成AIの登場により、サーバー内部の演算チップ間でやり取りされる情報量が爆発的に増加。これにより、演算チップ同士の通信も光化する動きが本格化しています。

具体的には、演算チップと光の送受信器を一つの部品としてまとめる「CPO(Co-Packaged Optics)」という製造技術の開発が急ピッチで進められています。

さらにその先、光化の最終目標として、演算チップの中での通信まで光で行う技術が研究されています。これが「シリコンフォトニクス」です。シリコン製の演算チップの中で光を扱うことからこの名前がついています。シリコンフォトニクスは、単にチップ内の通信を光化するだけでなく、計算そのものを光で行う「光コンピューティング」も視野に入れており、光が得意とする並行計算や量子コンピューティングへの応用も期待されています。

国内では、NTTが光電融合技術を基盤とした次世代のネットワーク・情報処理基盤構想「IOWN(アイオン)」を推進しています。

光化の段階を図で見てみましょう。

光化の段階

光電融合によってサーバー内の通信が光に変わることで、最も大きな効果は消費電力の大幅な削減です。電気通信では情報量が増えるほど消費電力も増えますが、光通信ではこれを9割以上減らせるという試算もあります。

(参考:Advanced Packaging and Chiplet Summit, SEMICON Japanでの発表 https://semi.eventos.tokyo/web/portal/609/event/14407/module/booth/369542/348771

生成AIの普及によりデータセンターが増え続け、その膨大な電力消費が社会問題となる中で、光電融合技術への関心はますます高まっています。

シリコンフォトニクスに関するグラント(競争的研究資金)の動向

アスタミューゼの保有するグラントデータベースの分析によると、2016年以降に開始された「シリコンフォトニクス」や「光集積回路」に関する約700件のグラントが抽出されました。ただし、中国のデータは開示状況が年によって異なるため、今回の分析からは除外されています。

国/地域別のグラント件数および全世界の総配賦額の年次推移

上記のグラフを見ると、米国、日本、英国の3カ国が常にグラント件数の7割以上を占めており、これらの国々が継続的にこの分野に注力していることが分かります。件数自体に大きな変動はありませんが、GAFAMのような大手企業が生成AIに本格的に参入し始めた2023年には、グラントの総配賦額(研究資金の総額)が増加していることが確認できます。

特に注目すべきは、最近(2023年以降)に開始された米国、日本、英国の代表的なグラントで、いずれも「III-V族半導体」という特殊な半導体をシリコン基板上に形成する研究に焦点を当てています。

  • 米国:Iris Light Technologies Incが、ナノ材料の印刷技術でレーザやフォトディテクタ(光検出器)などの光半導体素子をシリコン上に作る研究を進めています。

  • 日本:東京大学が、化合物半導体薄膜をシリコンに貼り合わせて光集積回路を実現する研究に取り組んでいます。

  • 英国:サウサンプトン大学が、特殊な製膜方法であるトンネルエピタキシーを用いてIII-V族半導体をシリコン上に直接結晶成長させる研究を行っています。

光集積回路で光を出す素子(発光素子)には、III-V族半導体のような直接遷移型の結晶構造を持つ半導体が必要です。しかし、シリコンは間接遷移型であるため、そのままでは発光素子を作ることができません。このため、III-V族半導体を、結晶性が合いにくいシリコン基板上に高品質な膜として形成することが、シリコンフォトニクスにおける最も重要な課題の一つとなっています。上記のグラントは、それぞれ異なるアプローチでこの課題解決を目指しているのです。

シリコンフォトニクスに関する論文の動向

次に、論文の動向を見てみましょう。2016年以降に公開され、グラントと同様のキーワードを含む約7,600件の論文が分析されました。

筆頭著者の所属国別の年次推移

論文では、グラントと同様に米国、日本、英国が上位を占めるほか、中国が2019年以降継続的に件数を伸ばしており、研究体制が拡大していることがうかがえます。また、カナダ、ベルギー、フランス、ドイツなどの欧州諸国も多くの論文を発表しています。

これらの論文を基に、キーワードの出現頻度の変化から将来性のある技術要素を評価する「未来推定」という分析手法が用いられました。これにより、現在注目度が高まっているキーワードが明らかになります。

出現頻度上昇が高い上位キーワード

出現頻度の上昇が高い上位4つのキーワードのうち、3つが「ニオブ酸リチウム(LN; Lithium Niobate)」に関するものです。ニオブ酸リチウムは、電圧をかけると光の屈折率が大きく変わる「電気光学効果」が非常に高い結晶で、レーザー光に高速な信号を乗せる「光変調器」として優れた性能を持っています。シリコンでも光変調器は作れますが、性能面ではニオブ酸リチウムには及びません。そのため、III-V族半導体と同様にシリコン上に薄膜として形成するのが難しい材料であるにもかかわらず、シリコンフォトニクスの発展に向けて活発に研究が進められています。

上位2キーワードの「TFLN」(Thin Film LN:薄膜ニオブ酸リチウム)と「LNOI」(LN on Insulator:絶縁層上ニオブ酸リチウム)は、いずれもシリコンウェハに貼り合わせるために加工されたニオブ酸リチウム結晶の材料形態を指します。

3位には、光の情報を一時的に保存する「不揮発性メモリ(non volatile)」に関するキーワードが入りました。光コンピューティングでは、情報を光の状態で保存する「光メモリ素子」の実現が重要な課題であり、研究対象としての注目度も上がっています。

5位の「マイクロトランスファー(micro transfer)」は、III-V族半導体やニオブ酸リチウムといった異なる材料の結晶を、複数のチップとしてまとめてシリコン基板上に転写する製造技術です。この技術は、微小なLEDチップを並べて大画面ディスプレイを作るマイクロLEDディスプレイなど、半導体以外の分野でも応用が期待されており、技術の相互転用による進展が見込まれます。

これらのキーワードに関連する最近の論文事例をいくつかご紹介します。

  • ニオブ酸リチウム(TFLN)

    • タイトル:High performance thin-film lithium niobate modulator on a silicon substrate using periodic capacitively loaded traveling-wave electrode

    • 雑誌名:APL Photonics

    • DOI: 10.1063/5.0077232

    • 概要:TFLNをシリコン基板に接合した光変調器で、特殊な電極構造により低電圧で広帯域な変調を実現する研究です。

  • 不揮発性光メモリ

    • タイトル:High-speed and energy-efficient non-volatile silicon photonic memory based on heterogeneously integrated memresonator

    • 雑誌名:nature communications

    • DOI: 10.1038/s41467-024-44773-7

    • 概要:電圧で抵抗値が変わるメモリスタに光半導体層を接合し、光の吸収波長がメモリスタの状態に応じて切り替わることで光メモリ素子を実現する研究です。

  • マイクロトランスファー(ニオブ酸リチウム)

    • タイトル:1.1-cm-long thin-film lithium niobate Mach-Zehnder modulator with low driving voltage integrated by micro-transfer printing

    • 雑誌名:Optics Express

    • DOI: 10.1364/OE.568498

    • 概要:ニオブ酸リチウム基板上に作った薄膜の光変調器素子を、一つずつシリコン基板に転写する製造方法に関する研究です。

その他には、光コンピューティングで注目される「量子コンピューティング(quantum computing)」や、シリコンフォトニクスの製造プロセス標準化に関連する「ファウンドリー(foundry)」といったキーワードも上昇傾向にあります。

また、ニオブ酸リチウムと比較対象として挙げられる「インジウム燐(indium phosphide)」は、かつて光変調器材料として注目されていましたが、2021年以降はニオブ酸リチウムの論文件数が急激に増加し、主役が交代したと言えるでしょう。

さらなる分析について

本レポートでは、光電融合技術に関するグラントと論文の動向分析の一部をご紹介しました。特許やスタートアップ企業の動向、そして全体的なまとめについては、アスタミューゼ株式会社のコーポレートサイトで詳細をご確認いただけます。

アスタミューゼ株式会社では、このような先端技術の分析を日々行っており、企業や投資家の方々に情報を提供しています。最新の政府動向、研究開発グラントデータ、スタートアップ/ベンチャーデータ、特許/論文データなどを活用し、R&D戦略や事業戦略の構築に役立つ高精度な将来予測や、機会と脅威の把握を支援しています。

ご興味をお持ちの方や、さらに詳しい分析を希望される方は、以下のリンクよりお問い合わせください。

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