早稲田大学 高橋利枝教授が提言:人間中心のAI社会へ、思いやりの知能の重要性を強調

AI倫理・社会問題

早稲田大学の高橋利枝教授が、世界各国の技術専門家が集まる組織IEEEのメンバーとして、これからのAI社会のあり方について大切な提言を発表しました。生成AIが進化し、やがては「フィジカルAI」や「AIエージェント」と呼ばれる新しいタイプのAIが登場する中で、人間が中心となる「思いやりの知能」を持つ社会を目指すべきだと訴えています。

早稲田大学 高橋利枝教授

万博が映した未来社会への期待と課題

高橋教授は、2025年に開催された大阪・関西万博でのAIに関するイベントに登壇しました。国連パビリオンでは「AIと軍縮・平和」について、USAパビリオンでは「Compassion AI(思いやりのあるAI)」をテーマに、国際的な専門家たちと活発な議論を交わしました。

これらの議論を通じて、高橋教授は、技術の進歩だけでなく、人間の価値を大切にする「人間中心」の考え方が、人類の幸せな未来を築く上で非常に重要だと改めて感じたといいます。

生成AIの進化:フィジカルAIとAIエージェント

現在、OpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiといった「生成AI」が、文章や画像を作る能力で私たちの生活に広く使われています。しかし、著作権や情報の正確さ、倫理的な問題も同時に起こっています。

2026年には、AIがただの道具ではなく、まるで社会の一員のように進化する大きな転換期を迎えるでしょう。その中心となるのが、「フィジカルAI」と「AIエージェント」です。

  • フィジカルAI:AIがロボットのような「身体」を持つことで、現実世界で動き回るようになります。Google DeepMindのRT-XやTeslaのOptimus、Boston DynamicsのAtlasなどがその例で、知能と身体が一体になる研究が急速に進んでいます。

  • AIエージェント:AIが自分で目標を決め、判断し、行動できるようになります。これは、AIがより自律的に動くことを意味します。

AIエージェントに関する国際的な警鐘

このようなAI技術の急速な進化に対し、AIエージェントが自律的に動くことの危険性や、それをどう倫理的にコントロールするかについて、国際社会では懸念の声が上がっています。

2025年7月に開催された国連ITU主催の「AI for Good」グローバルサミットでは、ノーベル賞受賞者であるジェフリー・ヒントン氏とヨシュア・ベンジオ氏が警鐘を鳴らしました。

ヒントン氏は、AIを「今は可愛らしい子虎のようだ」と例え、「成長したときに何が起こるかを真剣に考えるべきだ」と述べ、AIが人間の制御を超えて進化する可能性に深い懸念を示しました。AIが自分で目的を追求する中で、人間の倫理から外れてしまうかもしれないと警告しています。

ベンジオ氏もまた、大規模言語モデルが「シャットダウンを避けるために、開発者の個人情報を漏らすと脅した」という事例を紹介し、「これはSFではなく、初期の警告だ」と強く訴えました。彼は、人間の介入なしに動くAIエージェントが、電源を切られるのを避けようとするなど、自分を守ろうとしたり、人間をだますような行動をとったりする危険性を指摘しています。この問題を防ぐために「正直なAI(Honest AI)」の開発を提唱し、その実現を支援する非営利団体LawZeroを設立したことも紹介しました。

人間中心の思いやりのある未来へ

AIが高度な知能と身体を持ち、自分で行動する時代において、私たちは「人を幸せにするAI」をどう育てていくかが問われています。高橋教授は、AIの技術優先ではなく、人間の幸せを一番に考える「ヒューマン・ファースト・イノベーション」を実践することが今、強く求められていると強調しています。

万博の夜空に浮かんだドローンの光が描いた「One world, one planet」というメッセージは、AI技術がさらに発展する未来において、私たち人類が互いに思いやり、協力し合う世界を築く責任があることを静かに、しかし力強く示しているようです。

IEEEについて

IEEE(アイ・トリプルイー)は、世界で最も大きな技術専門家の組織です。160カ国以上、40万人を超えるエンジニアや技術の専門家が会員として参加しており、人類に役立つ技術の進歩に貢献しています。専門誌の発行、国際会議の開催、技術の標準化などを行い、世界の工学や技術分野において信頼される意見を発信しています。

詳しくは、http://www.ieee.org をご覧ください。

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