BSIが「企業のAIガバナンス」に関する調査レポートを公開:AI投資の加速と管理体制の課題

AI倫理・社会問題

BSI(英国規格協会)は、企業がAIをどのように導入し、管理しているかについて、最新の調査レポートを公開しました。このレポートによると、AIへの投資は世界的に加速しているものの、それを適切に管理・保護する仕組み(AIガバナンス)が多くの企業で追いついていない現実が浮き彫りになっています。

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AIへの投資は進むも、管理体制が追いつかない現状

調査では、世界のビジネスリーダーの62%が今後1年間でAIへの投資を増やす予定だと回答しています。主な目的は、生産性の向上(61%)とコスト削減(49%)です。また、多くの経営陣がAIを事業成長に不可欠なものと捉えています。

しかし、AIを安全に使うための「AIガバナンスプログラム」がある企業は全体の4分の1未満にとどまっています。特に日本ではその割合が低く、わずか10%しかありません。AIの利用が正式なプロセスで管理されていると回答した企業は約半数に増えましたが、自社ガイドラインを利用しているのは3分の1です。従業員のAIツール利用を監視している企業は4分の1、リスク評価プロセスを持つ企業は30%にとどまっています。日本においてはこれらの数値はさらに低く、世界平均との間に大きな差があることが示されています。

AIツールの学習にどのようなデータが使われているかを把握している経営者はわずか28%で、機密データをAIの訓練に使う際の明確なプロセスを持っている企業も40%にとどまっています(日本はそれぞれ18%、12%)。これは、AIを適切に運用するためのデータ管理が十分ではないことを示しています。

AI活用におけるリスクとセキュリティへの対策不足

ビジネスリーダーの約3分の1が、AIが自社にとってリスクや弱点の原因になると感じています。しかし、新しいAIツールを導入する際に従業員が従うべき標準化されたプロセスを持つ企業はわずか3分の1です。AI関連のリスクを会社のコンプライアンス義務に含めていると回答した企業は49%で、以前よりも減少しています。AIが新たな脆弱性を生み出す可能性を評価する正式なリスク評価プロセスを持つ企業は30%にとどまっています。日本の企業はこれらの数値がさらに低く、AIリスク管理体制の整備が急務であることが示唆されています。

特に金融サービス企業は、年次報告書でAI関連のリスクとセキュリティを重視しており、これは顧客保護やサイバーセキュリティの重要性を反映していると考えられます。

AIの不具合対応と効果の評価も課題に

AIが誤作動した場合の対応策についても、十分な準備ができていないことが明らかになりました。AIツールの不具合や不正確さを記録・報告して対処できるプロセスを持つ企業は、わずか3分の1です(日本は13%)。また、AIインシデントを管理し、迅速に対応するプロセスを持つ組織も3分の1未満です(日本は12%)。さらに、約5分の1の企業(日本は12%)は、生成AIツールが一定期間使えなくなると事業継続が不可能になると回答しています。

AI投資によって他のプロジェクトのリソースが奪われたと感じるビジネスリーダーは5分の2以上いますが(日本は13%)、組織内でAIサービスの重複を避けるプロセスを持つ企業は29%にとどまっています(日本は13%)。

人材育成と人的監督の重要性

年次報告書では「自動化」という言葉が「スキルアップ」や「リスキリング」よりもはるかに多く使われています。これは、企業が技術の進歩に比べて、従業員のスキル向上への投資を軽視している可能性を示唆しています。

多くのビジネスリーダーは、新入社員がAIを活用するために必要なスキルを持っていると確信しており、組織全体がAIツールを効果的に活用できるスキルを持っていると考えています。しかし、AI研修のための専用プログラムを持つ企業は3分の1(日本は16%)にとどまっています。

BSIのCEOが語るAIガバナンスの重要性

BSIの最高責任者であるSusan Taylor Martin氏は、「ビジネス界はAIの大きな可能性を実感し始めていますが、ガバナンスの整備は追いついていません。戦略的な監視や明確なルールがなければ、AIは成長を妨げ、生産性を損ない、コストを増加させる逆風にもなりかねません。企業は、受け身のコンプライアンスから脱し、能動的かつ包括的なAIガバナンスを確立すべきです」と述べています。

レポート詳細と関連情報

レポートの全文(英語)は、以下のページからダウンロードできます。

BSIは2023年末に、AIマネジメントシステムの国際規格である「ISO/IEC 42001:2023」を発行しました。この規格は、AIシステムを安全かつ倫理的に開発・運用するための枠組みを提供します。

調査の概要

本調査は、世界7か国(オーストラリア、中国、フランス、ドイツ、日本、英国、米国)のビジネスリーダー850名超を対象とした2回のグローバル調査と、AIを用いた100件以上の多国籍企業の年次報告書の分析を組み合わせて実施されました。これにより、AIが企業内でどのように位置付けられているか、経営幹部がどのようにAI導入を考えているかの包括的な見解が提供されています。

AI中心性モデル

BSI(英国規格協会)について

BSIは、ビジネス改善と標準化を推進する国際機関です。1世紀以上にわたり、組織や社会に良い影響をもたらし、信頼を築き、人々の暮らしを向上させてきました。現在、190を超える国と地域で77,500社以上と取引を行い、さまざまな業界の専門家や団体と連携しています。気候変動からデジタルトランスフォーメーションにおける信頼構築まで、重要な社会課題に取り組むことで、より良い社会と持続可能な世界の実現を支援しています。

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