NTTとドコモは、お客さん一人ひとりの「どうしたい」という気持ちをAIが予測し、それに合わせた提案を行う新しい技術「大規模行動モデル(LAM)」を開発しました。この技術は、お客さんの行動データを深く理解することで、これまで以上にきめ細やかなサービス提供を可能にします。実際に、このLAMを使ったテレマーケティングでは、サービス契約などの受注率が最大で2倍に向上したことが確認されています。

AIで「一人ひとりにぴったりの提案」を実現
企業がお客さんの満足度を高め、新しいビジネスチャンスを作るためには、マーケティングをもっと良くしていくことが大切です。これまでは、年齢や性別などでグループ分けをして、それぞれのグループに合った提案をする「セグメントマーケティング」が一般的でした。
しかし、最近では「1to1マーケティング」といって、お客さん一人ひとりのニーズに合わせて提案を変える方法が注目されています。これを実現するには、お客さんのことをもっと詳しく知る必要があります。
1to1マーケティングを効果的に行うためには、お客さんがお店やオンラインで日々行った行動の記録(時系列データ)を使い、商品を買ったりサービスを契約したりするまでの流れ(カスタマージャーニー)から、その人のニーズを把握することがとても重要です。しかし、色々な場所から得られるデータは、種類や頻度がバラバラで、これらを一つにまとめて分析するのは技術的に難しい課題がありました。
「大規模行動モデル(LAM)」とは?
NTTとドコモは、この課題を解決するために「大規模行動モデル(LAM)」というAI技術を確立しました。これは、オンラインショップや実店舗など、お客さんが利用する様々な場所から得られる「誰が/いつ/どこで/何を/どうした」という形のデータをAIが学習し、お客さんが「どうしたい」のかを予測する技術です。
LAMは、大規模言語モデル(LLM)という有名なAIに似た仕組みを持っています。LLMが言葉を理解し生成するのに対し、LAMは数値や分類されたデータに特化して、お客さんの行動パターンを学習し、将来の行動を予測します。
NTTはこのLAMの研究開発と、より良い性能を引き出すための調整方法を担当しました。一方ドコモは、お客さんのデータを一つにまとめ、LAMを作り上げ、さらに実際のテレマーケティングでどれだけ効果があるかを検証しました。

驚きの効率性!AIを動かすコストを大幅削減
大きなAIモデルや大量のデータを扱う場合、予測の精度を上げようとすると、AIを動かすための計算にかかる費用(計算コスト)が増えてしまうのが一般的です。しかし、今回のLAMでは、AIの設計や設定を工夫することで、ドコモ独自のLAMを作るための計算コストを大幅に抑えることに成功しました。
具体的には、高性能なコンピューター「NVIDIA A100(40GB)8基」を使っても、1日もかからずにLAMを構築できました。これは、オープンソースの有名なAIモデル「Llama-1 7B」を動かす場合と比べて、約568分の1という驚くべき効率性です。

この成果によって、費用を抑えながらも効果の高いLAMを作るノウハウが蓄積され、実際のマーケティングに応用できるようになりました。
実際にこんなに役立った!テレマーケティングでの成果
ドコモが開発したLAMは、お客さん一人ひとりのニーズと、テレマーケティングで連絡する必要性を点数で評価します。そして、連絡するべきお客さんを優先的に選び、提案することで、モバイルサービスやスマートライフ関連サービスの受注率が、これまでの最大2倍に向上する効果が確認されました。
実際に提案を受けたお客さんへの聞き取りからは、「お店に行きたかったけれど、子育てでなかなか行けなかった」という方や、「料金プランの変更に悩んでいた」という方に、ぴったりのタイミングで提案ができたことが分かっています。

LAMがお客さんの気持ちを読み解く仕組み
LAMは、お客さんの行動の順番によって、その行動が持つ意味が違うことを理解します。例えば、「テレマーケティング(電話での提案)→商品ページを見る→購入」という流れの場合、電話が商品の存在を知るきっかけになったと考えられます。一方、「商品ページを見る→テレマーケティング→購入」という流れなら、電話が商品への興味を深めた、とLAMは判断します。
また、もし購入した後に電話があった場合は、商品の不具合に関するサポートが考えられます。このように、LAMは行動の前後関係から、それぞれの行動が持つ意味を見分け、お客さんが「どうしたい」のかを正確に予測します。

さらに、LAMは、異なる頻度や形式のデータを段階的にまとめて学習するなど、特別な工夫をすることで、効率的に学習を進めることが可能になっています。
AIの力はもっと広がる!医療やエネルギー分野への応用
NTTは、LAM技術が様々な分野で役立つ可能性を探っています。今回確立された、費用対効果の高いLAM構築のノウハウは、他の分野にも応用できると期待されています。
医療分野
医療分野では、患者さんの治療の記録が時系列データとして電子カルテに残されています。病状の変化や薬の処方順序には、医療にとって大切な意味が含まれており、これらのパターンを分析することは、治療をサポートするのに役立ちます。そこで、LAMを活用した糖尿病治療のサポートに応用する取り組みも進められています。

エネルギー分野
天気に関する衛星データや地上での観測データも、時系列データとして記録されています。太陽光発電を行う会社は、これらのデータを使って将来の太陽の光の量(日射量)を予測し、発電計画を立てて電力を取引しています。隣接する太陽光発電施設の発電量の変化には、雲の動きなどが影響しているため、これらのパターンをLAMで分析することで、日射量の予測精度を向上させる取り組みも行われています。

今後の展望
NTTは、現実社会の課題をデータを使って解決するため、LAMの技術をこれからも改善し続けます。2028年までには、LAMが扱えるデータの種類を増やし、ビジネスで使われる様々な非言語データ(文章以外のデータ)のほとんどに対応できるようにする予定です。
ドコモは、1to1マーケティングをさらに進化させることで、お客さん一人ひとりのニーズに合った、よりきめ細やかなサービス提案を目指します。
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