地銀のDX、AI検索が浸透する一方でWebアクセシビリティに課題〜「地銀61行 DX推進状況レポート2025」から見えてくるデジタル化の現状

ビジネス活用

地方銀行のDX推進状況が明らかに

地域経済の活性化において、地方銀行のデジタルトランスフォーメーション(DX)は非常に重要な役割を担っています。株式会社メンバーズは、全国の地方銀行61行を対象に「Webサイト体験」と「顧客接点のデジタル化」の状況を評価した「地銀61行 DX推進状況レポート2025」を発表しました。

地銀61行 DX推進状況レポート 2025

この調査は2021年から毎年行われており、5回目となる今回は、AI(人工知能)の活用状況や、誰もがWebサイトを使いやすくするための「Webアクセシビリティ」、そして地域の情報を発信する「オウンドメディア」といった新しい項目が追加されています。

「地銀61行 DX推進状況レポート」の詳細はこちらから確認できます。
https://www.members.co.jp/download/162-dx-report

AI検索対応は進むも、Webアクセシビリティに大きな課題

今回の調査から、いくつかの重要なポイントが見えてきました。

AI検索対応(LLMO)の進展

GoogleのGeminiのような「大規模言語モデル(LLM)」と呼ばれるAIが、インターネット上の情報を引用して回答を生成する際に、銀行のWebサイトの内容を正しく見つけやすくするための工夫を「LLMO(大規模言語モデル最適化)」と呼びます。調査によると、約64%の銀行がこのLLMOにおいて一定の評価を得ており、AIが銀行の情報を正しく引用・参照しやすい状態になっていることが分かります。

LLMOスコアのグラフ

これは、顧客がAIを通じて銀行のサービスや情報を探す機会が増える中で、正確な情報を提供しようとする銀行の取り組みがうかがえます。

Webアクセシビリティの課題

一方で、「Webアクセシビリティ」には大きな改善の余地があることが明らかになりました。Webアクセシビリティとは、高齢者や障がい者を含む、どんな人でもWebサイトを快適に利用できるようにすることです。

特に「弱視・ロービジョンユーザー」と呼ばれる、視力や視野に障がいがあり、眼鏡などを使っても見えにくさが残る方々への対応が課題となっています。調査では、約72%の銀行のWebサイトで、弱視・ロービジョンユーザー向けの課題が10個以上見つかっています。特に、色彩やコントラスト比など、視覚的な要素の見直しが求められる結果となりました。

ロービジョン問題数のグラフ

また、音声でWebサイトを読み上げるソフト「スクリーンリーダー」の使いやすさを評価する「音声ユーザビリティ」においても、改善の余地があることが示されました。特に、情報が利用者の感覚(視覚、聴覚など)で認識できるかを示す「知覚可能」の項目で、高い評価を得ている銀行は全体の約26%にとどまっています。

音声ユーザビリティの原則別スコア

その他のデジタル化の進展

  • チャットボットの活用
    約64%の銀行でWebサイト上にチャットボットが導入されており、24時間365日の問い合わせ対応が可能になっています。これにより、店舗やコールセンターの負担軽減が期待できます。今後は、さらに進化する生成AIを組み込むことで、より自然で柔軟な対話が可能になり、顧客満足度の向上や新たなサービス利用のきっかけづくりにつながるでしょう。

    チャットボット導入状況

  • オウンドメディアの運営
    約30%の銀行がオウンドメディアを運営し、金融知識や地域ならではの情報を発信しています。これにより、若年層やデジタル志向の顧客など、これまで店舗や営業では届きにくかった層との関係構築を進めています。

    オウンドメディア運営状況

  • アプリ機能の充実
    アプリから振込と残高照会の両方が可能な銀行は、前回調査から8行増加し、約85%に達しました。既存顧客の維持や優良顧客の育成に向けて、アプリ機能の充実が進んでいます。

    アプリATM機能

  • オンラインでの来店予約・相談
    オンラインで来店予約と相談の両方が可能な銀行は、前回調査から9ポイント増加し、約49%となりました。窓口での体験をデジタルに広げる動きがますます強化されています。

    オンライン来店予約・相談

総合ランキングから見るDX推進の全体像

今回の調査では、「Webサイト体験」と「顧客接点のデジタル化」の合計14項目を総合的に評価したランキングも発表されました。千葉銀行が1位となり、群馬銀行、北國銀行がそれに続いています。このランキングは、各銀行のDX推進の取り組み状況を比較する上で参考になるでしょう。

総合ランキング表

まとめ

地方銀行のDXは、AI検索対応やチャットボット導入、アプリ機能の充実など、顧客接点のデジタル化が進んでいることが分かります。一方で、Webアクセシビリティ、特に弱視・ロービジョンユーザーや音声読み上げソフトへの対応には、まだ多くの改善が必要です。

地域経済を支える地方銀行が、より多くの人々にとって使いやすいデジタルサービスを提供していくことは、社会全体の持続的な発展に貢献する大切な取り組みと言えるでしょう。

調査概要

  • 調査期間: 2025年8月1日(金)~8月31日(日)

  • 調査対象: 地方銀行61行(北海道銀行、青森みちのく銀行、岩手銀行、東北銀行、七十七銀行、秋田銀行、北都銀行、荘内銀行、山形銀行、東邦銀行、常陽銀行、筑波銀行、足利銀行、群馬銀行、武蔵野銀行、千葉銀行、千葉興業銀行、きらぼし銀行、横浜銀行、第四北越銀行、山梨中央銀行、八十二銀行、北陸銀行、富山銀行、北國銀行、福井銀行、大垣共立銀行、十六銀行、静岡銀行、スルガ銀行、清水銀行、百五銀行、三十三銀行、滋賀銀行、京都銀行、関西みらい銀行、池田泉州銀行、南都銀行、紀陽銀行、但馬銀行、鳥取銀行、山陰合同銀行、中国銀行、広島銀行、山口銀行、阿波銀行、百十四銀行、伊予銀行、四国銀行、福岡銀行、筑邦銀行、西日本シティ銀行、北九州銀行、佐賀銀行、十八親和銀行、肥後銀行、大分銀行、宮崎銀行、鹿児島銀行、琉球銀行、沖縄銀行)

  • 比較対象: メガバンク3行(三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行)

  • 調査・分析: 株式会社メンバーズ フォーアドカンパニー

Webアクセシビリティの評価には、総務省が提供する「みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker Ver.3.1」が使用されました。
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/michecker.html

株式会社メンバーズについて

株式会社メンバーズは、デジタル人材の支援を通じて企業のDX推進をサポートしています。AI、サービスデザイン・UX、プロジェクトマネジメントなど多岐にわたる分野で専門スキルを持つ人材が、企業の一員として伴走し、内製型のDX推進を支援しています。

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