日本のオープンソース活用、ビジネス価値向上の一方で課題も浮き彫り:最新レポートが示す現状

AI

2025年12月8日、オープンソースを通じて世界的なイノベーションを推進する非営利団体であるLinux Foundationは、最新レポート「The State of Open Source Japan 2025: Accelerating business value through strategic open source engagement」の日本語版「日本のオープンソースの現状 2025:戦略的なオープンソース活用によるビジネス価値の加速」を公開しました。

日本のオープンソースの現状 2025 レポート表紙

このレポートは、日本企業がオープンソースソフトウェア(OSS)をビジネスの重要な土台として活用している実態と、それがもたらすビジネス価値、そして同時に抱えるガバナンスやセキュリティに関する課題を詳しく分析しています。

オープンソースがもたらすビジネス価値と残る課題

Linux Foundation日本代表の福安徳晃氏は、オープンソースが日本の競争力とイノベーションを支える「戦略的な必須要件」へと進化したと述べています。実際、過去1年間で69%もの組織がオープンソースによるビジネス価値の向上を実感しており、これは世界全体の54%を大きく上回る結果です。将来においてもオープンソースが価値を持つと考える組織は74%に達しています。

しかし、この勢いを継続的な成果につなげるためには、まだ乗り越えるべき課題があります。特に、オープンソースを安全に管理するためのルール作り(ガバナンス)やセキュリティ対策が不十分な組織が多いことが指摘されています。オープンソースプログラムオフィス(OSPO)を導入している組織はわずか41%で、明確なオープンソース戦略を持つ組織は39%にとどまっています。

日本企業のユニークなオープンソース活用パターン

日本の組織は、オープンソースの導入において興味深い傾向を示しています。オペレーティングシステムやデータベースといった基本的なインフラ分野では世界に比べて遅れが見られる一方で、拡張現実/仮想現実(AR/VR)、3Dシミュレーション、ブロックチェーン、製造技術といった専門的なアプリケーション分野では世界をリードする成果を上げています。特に、AR/VR(39%)、AI/ML、クラウド(それぞれ28%)は、日本で最も注目されているオープンソース技術として挙げられています。

セキュリティ体制と商用サポートへの高い期待

セキュリティ面では、日本企業の40%が自動セキュリティテストツールを使用していますが、包括的な評価手法の導入はまだ限定的です。例えば、オープンソースコンポーネントのコミュニティ活動状況を確認している組織は26%で、世界全体の47%を下回っています。一方で、コモンクライテリア(Common Criteria)というセキュリティ評価フレームワークの採用率は52%と世界平均(13%)を大きく上回っており、日本独自のセキュリティへのアプローチが見られます。

また、商用サポートへの期待も非常に高いことが明らかになりました。日本の組織の89%が、オープンソースに関する重要な問題に対し12時間以内のサポート応答を期待しており、これは世界平均の69%よりも高い水準です。規制の厳しい業界や機密データを扱うシステム、ミッションクリティカルなシステムでは、有償サポートが不可欠と考える割合が40%以上に達しており、オープンソースが単なるコスト削減の手段から、正式なサービスレベルアグリーメント(SLA)を必要とする基幹インフラへと位置づけが変化していることを示唆しています。

積極的な関与が競争力を高める

レポートでは、オープンソースに非常に積極的に関与している日本の組織は、そうでない組織と比較して競争力が高まると回答する割合が高いことが示されています(73% vs 56%)。積極的な関与は、セキュリティの向上(78%)、イノベーションの促進(77%)、スタッフの知識向上(74%)、ソフトウェア品質の向上(73%)など、多くのメリットをもたらしています。

しかし、経営層(C-suite)レベルでのオープンソースの戦略的価値認識はまだ十分ではないというギャップも指摘されています。経営幹部でその価値を認識しているのは70%に留まり、他の従業員(85%)を下回っています。また、知的財産権に関する懸念や明確なポリシーの欠如が、オープンソースへのさらなる参加を阻む要因となっています。

今後の展望

この調査結果は、日本の組織がガバナンスと導入のギャップをうまく埋めることができれば、特に新興分野において、人材獲得、効率的な運用、市場での優位性など、さらに大きな競争優位性を獲得できる可能性を示唆しています。既存の専門技術における強みを活かしつつ、積極的なオープンソースへの関与、正式な組織体制の整備、そして包括的なセキュリティ対策を通じて、この可能性を実現していくことが重要です。

詳細な分析については、レポート全文をご覧ください。

Linux Foundationに関する詳細は、以下のリンクをご確認ください。

タイトルとURLをコピーしました