ドローンとAIでブドウ畑の管理を効率化
北海道仁木町にあるNIKI Hills Wineryは、高齢化や人手不足といった農業の課題を解決するため、韓国のテクノロジー企業DeepVisions、およびNAVER J.Hub Corporationと共同で「スマート農業実証実験」を進めてきました。この取り組みにより、ブドウ畑の巡回・確認業務にかかる時間を約82%削減できる見込みです。

プロジェクトの背景と目的
NIKI Hills Wineryでは、6.8ヘクタールにも及ぶ広大な畑で、シャルドネやピノ・ノワールといった高品質なワイン用ブドウを栽培しています。高品質なブドウを安定して生産するには、病害虫を早く見つけ、適切に生育を管理することが非常に重要です。しかし、これまでの人の手による管理では、広大な畑すべてを細かくチェックすることには限界がありました。
この課題を解決するため、NAVER J.Hub CorporationとDeepVisionsが「Vineyard Management System (VMS)」を企画・開発しました。2025年4月から11月にかけて行われた実証実験は、農業従事者の経験と勘だけでなく、データを活用してより精密で効率的な農業を実現することを目的としています。
実証実験の概要と主な効果
このプロジェクトでは、ドローンが自動で畑を撮影し、その画像をAIが解析することで、ブドウの生育状況や病害虫の発生をリアルタイムで確認できるシステムを構築しました。この実証実験は、整地されていない傾斜地を含む6.8ヘクタールの広大な実際の畑で行われ、位置情報や病害虫の認識の精度を高めることに重点が置かれました。
病害虫の自動検出と精密な位置特定
AIはドローンが撮影した画像を解析し、「灰色かび病」や「マグネシウム欠乏」といった病気や生育不良を自動で検出します。病害が発生した場所は、写真上の位置のズレをなくして真上から見たように表示される「オルソマップ」という高解像度の地図上に正確に示されます。これにより、作業者はすぐに適切な対応を取ることができ、農薬を必要な場所にだけ散布することが可能になるため、年間農薬使用量の削減が期待されます。
データ連動型の農業日誌
農薬の散布や肥料の投入、日々の作業内容などをカレンダー形式で簡単に入力・管理できる農業日誌機能も活用されています。作業の履歴がデータとして蓄積されることで、翌年以降の栽培計画をより良いものにするのに役立ちます。
AI性能の高度化
実証実験で集められたたくさんの画像データをAIに学習させることで、病害虫の検出精度がさらに向上しました。特に、影になりやすい場所でも正確に識別できるよう、ガンマ補正などの画像処理技術が使われています。
作業時間の大幅削減
人が畑を歩いて確認する場合、年間で約5,000時間かかると計算されています。しかし、ドローンとAIを使った巡回・確認作業は自動化されるため、約960時間で済み、確認作業にかかる時間を約82%も削減できると試算されています。
今後の展望
NIKI Hills WineryとNAVER J.Hub Corporation、DeepVisionsは、2026年も引き続き実証実験を行い、システムの機能追加や高度化を進める予定です。将来的には、このシステムの製品化を目指しています。
予察機能の追加
気象観測機を設置し、気象データとドローンデータを組み合わせることで、病害の発生条件をAIが分析し、病気発生前にアラートを出す機能を追加する予定です。これにより、病気の発生を未然に防ぐ予防的な管理ができるようになるでしょう。
生育状況の分析
マルチスペクトルデータという特殊な画像データを使って、ブドウ畑の生育状況や栄養状態を分析し、栽培計画に役立てることを目指します。
収量予測モデルの開発
ブドウの画像をAIが解析し、区画ごとの収穫量を高い精度で予測します。この機能によって、ワイナリーの運営や収穫に必要な人手や資材を事前に確保できるようになります。
有害動物監視システム
シカや鳥など、畑に被害を与える動物を自動で感知し、迅速な対策を可能にするシステムも検討されています。
成果報告会の実施
2025年12月6日には、NIKI Hills Wineryで成果報告会が開催され、関係者に実証実験の概要や成果が報告されました。当日はドローンを使ったデモンストレーションも行われました。
仁木町長の佐藤 聖一郎氏は、「就農者の高齢化、労働力不足、気候変動への対応、鳥獣被害対策といった農業を取り巻く課題を克服するための対策であり、この実証実験がこれからの地域農業を切り開いていくための非常に大きな礎になる」とコメントしました。また、北海道大学教授で北海道ワイン教育研究センター長の曾根 輝雄氏は、「病害の情報だけでなく、農作業の管理や就業管理といった側面にも通じるものであり、非常に素晴らしい。今後、病害の予察機能を期待する」と述べました。

各社について
NIKI Hills Winery
広告会社DACグループが運営する複合型ワイナリーです。仁木町の再生を目指し、2014年に事業を開始しました。33ヘクタールの敷地には醸造所、ブドウ畑、ナチュラルガーデン、レストラン、宿泊施設があります。国際コンクールで金賞を受賞する高品質なワインづくりを続ける一方で、地域貢献にも力を入れ、ワインツーリズムを通じて仁木町の活性化を目指しています。
URL: https://nikihills.co.jp/
NAVER J.Hub Corporation
韓国最大のIT企業であるNAVER Corporationが100%出資する日本法人で、日本国内での事業投資や運営を担当しています。主に日本でNAVERのサービス関連事業を展開しており、LINE株式取得といった主要な投資決定にも携わっています。
URL: https://www.navercorp.com/
DeepVisions
「ビジョンAI技術で人類の課題を解決する」をミッションに掲げる韓国のテクノロジー企業です。主力ソリューション「ビジョンプラス」は、映像データをAIで解析し、大気汚染測定のコストを99%削減するなど、さまざまな分野で社会課題の解決に貢献しています。
URL: https://www.deepvisions.co.kr/
株式会社DACホールディングス 概要
社名: 株式会社DACホールディングス
代表者: 代表取締役社長 石川 和則
所在地: 〒110-0015 東京都台東区東上野4-8-1 TIXTOWER UENO 13F
社員数: 903名(DACグループ総数)
URL: https://www.dac-group.co.jp/

