AIの次に来る技術トレンドとは?CESデータから読み解く「製造・エネルギー」への大転換

AI

AIの次に来る技術トレンドとは?CESデータから読み解く「製造・エネルギー」への大転換

世界最大規模のテクノロジー展示会「CES」のデータ分析から、今後の技術トレンドに大きな変化の兆しが見えてきました。リンカーズ株式会社の子会社である株式会社リンカーズOI研究所は、2022年から2025年までの4年間で、延べ41,000社以上のCES出展企業データを独自に収集・分析し、その結果を公開しました。

なぜCESのデータ分析が重要なのでしょうか?

CESの出展企業データを継続的に分析することは、世界がこれからどのような技術に投資し、何を成長させようとしているのかをいち早く把握するための大切な手段です。この技術トレンドの把握は、企業が将来の計画を立てたり、新しい事業を考えたりする上で非常に重要になってきています。

リンカーズOI研究所は、このような分析を通じて、日本の産業界が世界の流れをしっかりと捉え、自社の戦略に役立てられるように支援することを目指しています。

どのように分析したの?

今回の調査では、CES2022年から2025年までの公式出展企業リスト、合計約41,000件のデータが対象となりました。55の技術カテゴリについて、出展企業の数とその伸び率を比較し、トレンドをわかりやすく整理しました。さらに、出展情報の概要文をAIで分析し、キーワードの傾向も調べています。

分析結果①:技術トレンドは「デジタル」から「フィジカル(現実世界)」へ

2022年と2025年の出展データを比べると、最も成長した分野は、意外にもAI単体ではありませんでした。出展数の増加率が一番高かったのは「Sourcing & Manufacturing(製造・調達)」で、なんと422%も増えています。次に「Energy/Power(エネルギー・電力)」も208%と大きく伸びました。これらは「Artificial Intelligence(AI)」の179%という成長率を上回っています。

技術カテゴリ 成長率ランキング(Top 5)

この結果は、技術が「デジタル空間」だけでなく、サプライチェーンの見直しやエネルギーの仕組み作りといった「フィジカル(現実)空間」へと戻ってきていることを示しています。AIは、それ自体が話題の技術というよりも、製造現場などに組み込まれて使われる「当たり前の道具」へと変化していることがわかります。

分析結果②:世界が注目する「3つの戦略領域」

出展企業の数と年平均成長率(CAGR)で技術を分けると、世界が特に次の3つの領域に力を入れていることがわかりました。

  • 重点領域:AI・エネルギー・製造
    これらの3つの領域は、年平均で40%以上も成長しており、市場を引っ張る存在です。特に「Sourcing & Manufacturing(年平均73%増)」と「Energy(年平均45%増)」の伸びに加え、「Artificial Intelligence(年平均41%増)」も引き続き高い成長を続けています。これは、単にアナログに戻るのではなく、AIが製造やエネルギーといった現実の産業に組み込まれる形で市場が広がっていることを示しています。

  • 基盤技術領域:IoT、モビリティ
    IoT(モノのインターネット)やモビリティ(移動に関する技術)は、年平均で20%前後と安定した成長を見せる、社会の土台となる技術領域です。「Vehicle Tech(自動車技術)」の成長が落ち着いてきていることから、電気自動車や自動運転といった技術が、話題の段階から社会のインフラとして定着する段階に入ったことがうかがえます。

  • 新興領域:量子・宇宙
    まだ出展企業の数は少ないものの、年平均25%を超える確かな成長が見られる、次の時代の技術領域です。まだ一般的に使われる手前の段階ですが、これから大きなイノベーションが生まれる可能性を秘めています。

    • Space Tech(宇宙技術):年平均25.5%増。民間の宇宙ビジネスが成長する中で、出展企業は83社に増えました。通信技術だけでなく、宇宙空間でのモノづくりといった新しい考え方も登場しています。

    • Quantum Computing(量子コンピューティング):年平均30.5%増。2022年の9社から20社へと倍増し、研究段階から産業での利用へと進む兆しが見られます。

分析結果③:世界のイノベーション地図が変化

国ごとの出展の動きを見ると、2022年とは大きく異なる変化が見られました。

  • 中国:存在感が急拡大
    2022年には106社だった中国企業が、2025年には968社と約9倍にも増えました。アメリカ(1,014社)に迫る規模となり、世界の市場での存在感を再び強くしています。

  • 韓国:スタートアップ分野で世界トップに
    新しい技術を試し、世界に発信する場である「Startups」カテゴリでは、韓国が330社を出展し、開催国であるアメリカ(239社)を上回って世界1位となりました。政府による支援策が背景にあり、最先端の分野での競争力を急速に高めていることがわかります。

分析結果④:キーワード分析から見える各国の関心テーマ

各国の企業の出展概要をAIで分析した結果、国ごとに力を入れている社会の課題がはっきりと分かれました。全体的には「IoT」「Camera」のような機能を表す言葉が減り、「Safety(安全)」「Efficiency(効率)」といった「価値」につながる言葉が増えています。これは、CESが「技術を見せる場」から「未来の社会のコンセプトを提示する場」へと変化していることを示しています。

  • アメリカ:「Security(セキュリティ)」や「Power(電力)」が増加しており、生活の基盤を強くすることや、エネルギーのインフラへの関心が高まっていることがわかります。

  • 韓国:「Safety(安全)」や「Efficiency(効率)」といった、社会の課題に直接つながる価値のある分野へのシフトが見られます。

  • 中国:「Factory(工場)」に加えて「Brand(ブランド)」がよく使われるようになっています。これは、他社の製品を作るOEM中心から、自社ブランドを作る方向へと転換しようとしている動きが顕著です。

  • 日本:従来の機能を表すキーワード(IoT、Camera)から、「Energy(エネルギー)」や「Manufacturing(製造)」へと移行しています。モノづくりと脱炭素を組み合わせた分野での競争力強化を目指していることがうかがえます。

今後の展開:データが示した「問い」を現地で検証

今回の分析で、世界が「AIの活用」と「現実の産業の再加速」へと大きく方向転換していることが明らかになりました。しかし、出展データの変化だけでは見えない疑問点も残されています。

  • 急増した中国企業の技術力は、実際どのくらいのレベルにあるのか。

  • 世界トップの出展数となった韓国のスタートアップの中に、次の大きな成功を収める企業はいるのか。

  • AIが組み込まれた製造現場は、どのような新しい仕事のやり方を生み出すのか。

リンカーズOI研究所は、これらの疑問の答えを探るため、CES 2026(アメリカ・ラスベガス)に専門の調査員を派遣し、現地でのインタビュー調査や展示ブースの視察を行う予定です。

さらに、今回の分析結果に加えて、現地で感じた展示の熱気、主要な企業の動き、次の成長市場の兆しなどをまとめた「CES 2026 イノベーションレポート」を2026年1月末に販売開始する予定です。レポートの詳細については、以下のサイトをご覧ください。

日本の産業界が「今」知るべき、リアルな技術の流れをリンカーズ独自の視点でお届けします。

タイトルとURLをコピーしました