ごみ収集の「見えない課題」を解決
普段の生活に欠かせないごみ収集ですが、その現場では多くの課題があります。例えば、毎日何百ものごみステーションを回ったり、それぞれのステーションでごみを集める時間が短かったりするため、実際にどれくらいのごみが集まったのかを正確に把握することは、これまでほとんど不可能でした。
そのため、自治体は住民や事業者からの情報に頼ってごみステーションを設置し続けるしかなく、人口の変化によってごみの量とステーションの数が合わなくなり、多すぎたり足りなかったりするステーションが全国的に問題となっています。
スマートグラスとAIで次世代のごみ収集へ
このような課題を解決するため、滋賀新聞GovTechイノベーションズ株式会社と有限会社アナログエンジンは、スマートグラス、AI(人工知能)画像解析、そして位置情報技術を組み合わせた、全く新しいごみ収集のDX(デジタルトランスフォーメーション)プラットフォームを開発しました。この新しいシステムは、2026年1月より滋賀県と東京都の一部地域で実証実験が始まります。

「見る・ワンタップするだけ」でごみ量が自動記録
このシステムでは、ごみ収集の作業員がごみステーションの前でごみを「見る」だけで、スマートグラスを「ワンタップ」すると、次のようなことが自動で行われます。
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スマートグラスが捉えた映像から、AIがごみの量(個数、体積、種類など)を予測・判定し、その結果を位置情報と一緒に日報に自動で記録します。
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ごみ量の判定結果は、音声やスマートグラスの画面にすぐに表示され、作業員に伝えられます。
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すでに登録されているステーションだけでなく、まだ登録されていないステーションもAIが見つけて、新しく登録するのを手助けします。
つまり、これまで手で入力したり、写真を撮ったり、報告書を作ったりしていた作業がすべて不要になり、現場の作業員は「ステーションを見てワンタップする」だけで済むようになるのです。
スマートグラスとは?
スマートグラスとは、メガネのようにかけることができるデバイスで、カメラ、画面、通信機能などが搭載されています。作業員は手を使わずに必要な情報を見ることができるため、現場での作業の負担を減らしたり、リアルタイムで情報を確認したりするのに役立つ、次世代の便利な道具として注目されています。
データ活用でごみステーション配置を最適化
この新しいシステムは、毎日ずっとスマートグラスを使い続けることを前提としているわけではありません。自治体や事業者がごみステーションの配置を見直したい時に、一定期間集中して使うことで、必要なデータを効率良く集めることができます。このシステムの最大の魅力は、単にごみ量を記録するだけでなく、自治体全体のごみ収集の仕組みを根本から見直せる点にあります。
AIによってごみ収集量のデータが一定期間たまっていくと、次のようなことが可能になります。
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それぞれの自治体で出るごみ全体に対して、各ステーションがどれくらい貢献しているかを数字で示すことができます。
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住んでいる人の状況や人口の変化に合わせて、適切なステーションの数をデータから計算できます。
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ごみステーションが多すぎたり足りなかったりする場所を、具体的な数字で示すことができます。
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ごみの量が偏っている場所をはっきりさせて、ごみ収集のルートを最適化し、作業量や燃料の消費を減らすことにもつながります。
これまで、住民からの申告に頼っていたごみステーションの設置が、科学的なデータに基づいた都市のインフラ設計へと進化することで、ごみ収集の業界に大きな変化が訪れることが期待されます。
ごみの特徴に合わせた独自AIを開発中
このシステムでは、はじめは一般的なAIサービスを使いますが、将来的には、ごみ特有の形、袋の材質、積まれ方、色、透明度、袋の膨らみ方などに特化した独自のAIモデルを開発しています。
この独自AIモデルは、ごみ収集現場で「実際どのように見えるか」にこだわった推定機能を持っています。例えば、ステーションの形や設置のされ方、袋の平均的なサイズや色、膨らみ方などの特徴を組み合わせることで、見えないところに隠れて重なっている袋の数を推測したり、コンテナ型ステーションの場合は、中のスペースに対するごみの充填率を画像から推測し、資源ごみの実際の総量を予測したりすることができます。これにより、単に「写っている数を数える」以上の、現場の状況に合わせた高度なごみ量の推定が可能になります。
このAIモデルは、次のような工夫がされています。
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スマートグラスの映像に合わせたリアルタイム分析:ごみ収集作業を止めずに、その場で映像を分析し、作業の流れを邪魔することなくごみ量を把握します。
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距離と角度を補正する技術:作業員の立つ位置や視線の角度でごみの見え方が変わっても、それを補正して、どの位置から見ても安定したごみ量を推定できるようにします。
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たくさんのデータがなくても学べる特徴抽出:事前に大量の正しいデータを用意しなくても、現場の映像からごみの特徴を自動で学び、さまざまな形のステーションに対応できます。
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収集現場での学習で精度が向上:毎日のごみ収集データを使って少しずつ学習し、地域や季節ごとのごみの特徴にも合わせて精度が高まっていきます。
今回の実証実験を通じて、このAIモデルの精度をさらに高めていきます。また、作業員が操作しなくても、スマートグラスや車に搭載されたカメラから得られる連続した映像を使って、ステーションごとの収集量を自動で推定する次世代システムの開発も進められています。将来的には、家庭ごみだけでなく、粗大ごみの申し込みデータと現場の映像を照らし合わせることで、現場での確認作業を減らすことなども視野に入っています。最終的には、クラウドサービスと自社のサーバーを組み合わせることで、自治体の規模や情報の安全に関する要望に合わせて、最適な運用ができるように設計される予定です。
今後の予定
この新しいごみ収集DXプラットフォームは、今後のスケジュールとして次のように発表されています。
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2026年1月:滋賀県の一部地域、東京都の一部地域で実証実験開始
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2026年春:AIモデルの精度を評価し、改良版をリリース
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2026年5月:東京ビッグサイトで開催される「2026NEW環境展」で正式に発表され、デモ体験会も実施
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2026年6月:既存の「GoMe」シリーズと連携し、ごみ量の予測やごみの偏りを分析できるダッシュボード機能を強化
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2026年6月以降:全国の自治体やごみ収集を委託されている事業者向けに、正式なサービスの提供を開始予定
このシステムは、これまでのごみ収集に関する特許技術とも連携し、ごみ収集作業の自動化とデータの有効活用を両方進める「ごみ収集DXの決定版」を目指しています。
また、自治体や民間企業が導入しやすい価格で提供される予定で、規模や予算の大小にかかわらず、DXに取り組める環境づくりを大切にしています。デジタル化の流れを止めずに、現場と行政、企業をつなぐ社会の基盤として、持続可能なDXの実現に貢献していくことが期待されます。
このシステムの詳細はこちらから確認できます。
廃棄物収集管理SaaS「GoMe53」

