南極から日本へ、わずか1秒で3Dデータと映像が届く驚きの技術
三機工業株式会社、株式会社KDDI総合研究所、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所の3者が協力し、2025年11月18日、南極の昭和基地から日本のKDDI総合研究所本社へ、3D点群データと映像をリアルタイムで送る実証実験に成功しました。この技術では、Starlinkという衛星通信回線が使われています。

今回の成功は、スマートフォンで設備を測ったり撮影したりしてから、データを圧縮し、日本へ送ってモニターに表示するまで、なんと1秒もかからない速さで、途切れることなく3D点群データと映像を同時に送れることを示しました。送られてきた3D点群データは、3D-CAD(コンピューターで立体的な設計図を作る技術)で使えるほどの高い品質があり、南極での作業を日本から支援できることも確認されています。
この画期的な成果により、遠く離れた場所での作業が大きく変わり、デジタルの力で仕事をもっと効率的にする「作業DX」の実現に向けて、大きな一歩を踏み出しました。
なぜ南極からのデータ伝送が重要なのか
南極の昭和基地では、さまざまな観測や研究が行われています。これらの活動を支えるため、通信や機械設備の分野で多くの協力が行われてきました。しかし、昭和基地の隊員の方々は、空調設備や配管などの設置状況を、手作業で測って紙の図面に書き込むなど、時間と手間がかかる作業に多くの時間を費やしていました。
KDDI総合研究所と国立極地研究所は、以前から映像を遠くへ送る技術の研究を進めており、2022年にはインテルサット衛星通信を使い、南極から8K映像をリアルタイムで送ることに世界で初めて成功しました。さらに2024年には、Starlinkを活用した8K映像のリアルタイム伝送も成功させています。
これらの技術は、昭和基地から離れた場所で活動する観測隊員と日本の担当者が、リアルタイムでコミュニケーションを取りながら作業を進めることを可能にし、業務の効率化に貢献してきました。
スマートフォン1台で可能になったリアルタイム情報共有
今回の実証実験では、この課題を解決するために、スマートフォンを活用しました。南極と日本の距離は約14,000kmと非常に離れており、大量のデータを途切れることなく安定して送るには、高度な技術が必要です。
KDDI総合研究所は、データを圧縮して送るためのソフトウェアを改良しました。具体的には、SRTというリアルタイム伝送に適した技術と、G-PCCという3D点群データを効率よく圧縮する技術を組み合わせ、データの送受信速度を大幅に向上させました。これにより、設備の立体的な状況を正確に把握できる3D点群データと映像を、リアルタイムで送ることに成功したのです。

また、特別な専門家でなくても、普段使いのスマートフォン1台で計測からデータ伝送まで行えるように、機器をコンパクトにし、操作を簡単にしました。これにより、現場の隊員は手軽に短時間で計測作業を終えられ、リアルタイムで日本側と情報を共有することで、状況の確認や支援をすぐに受けられるようになります。これは、隊員の仕事の効率を上げ、負担を減らすことにつながります。
三機工業は、日本国内のエンジニアが受信した3D点群データをもとに3D-CAD図面を作成し、完成した図面を南極の越冬隊員と共有できることを実証しました。これにより、遠く離れた場所での工事管理業務がより効率的になります。
システムの仕組み
このシステムは、以下の図のように構成されています。

昭和基地では、LiDAR(光を使って距離を測る技術)が搭載されたスマートフォンに特別なソフトウェアをインストールして設備を計測・撮影します。このデータは圧縮され、Starlink回線を通じて日本へ送られます。日本側のKDDI総合研究所本社では、送られてきたデータを受信し、モニターに表示して確認します。
今後の展望
今回の成果は、極地や遠隔地など、通信環境が整っていない地域での人手がかかる作業を、デジタルの力で大きく変える可能性を秘めています。KDDI総合研究所、国立極地研究所、三機工業の3者は、これからも協力して、この技術の実用化に向けて取り組んでいくとのことです。
なお、KDDI総合研究所は、2025年12月18日から12月19日まで慶應義塾大学矢上キャンパスで開催される「2025年 映像情報メディア学会冬季大会」で、今回の実証実験に関する発表を行う予定です。
関連ニュースリリース
過去の関連する取り組みについては、以下のニュースリリースで詳細が確認できます。

