
次世代の社会インフラを支える重要な材料として注目されている「SiC(シリコンカーバイド)ウエハ」に、新たな進展がありました。株式会社オキサイドパワークリスタルを中心とする開発グループは、AI技術の「デジタルツイン」と独自の「溶液成長法」を組み合わせることで、6インチサイズのp型SiCウエハの試作に成功しました。この画期的なウエハは、2025年12月17日から東京ビッグサイトで開催される半導体製造技術の展示会「SEMICON Japan 2025」で、日本国内では初めて一般公開されます。
なぜSiCウエハが重要なのか?
SiCは、電気自動車や鉄道、再生可能エネルギーのインバータなど、私たちの生活に不可欠な次世代のパワー半導体に使われる材料です。このSiCウエハが大きくなり(大口径化)、結晶の欠陥が減る(高品質化)ことで、より高性能で効率の良いパワー半導体を作れるようになります。これは、電力のムダを減らし、地球温暖化対策にもつながるため、非常に期待されています。
この研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトの一環として進められています。
AI技術「デジタルツイン」と「溶液成長法」の組み合わせ
開発グループは、名古屋大学で長年培われてきた「溶液成長法」という結晶を育てる技術を基盤としています。
溶液成長法とは?
これは、溶けた材料の中から、ゆっくりと結晶を成長させる方法です。SiCの場合、炭素(C)の容器にシリコン(Si)を溶かし、そこに炭素が溶け込んでSiCの材料ができます。この材料をSiCの種となる結晶に付けて、SiCの単結晶を育てます。従来の育て方よりも、原理的に結晶の欠陥が少なく、高品質な結晶を作れるのが特徴です。
さらに、この溶液成長法に「デジタルツイン」というAI技術を組み合わせることで、より効率的に高品質なウエハの試作に成功しました。
デジタルツインとは?
これは、実験や製造の様子をコンピューターの中にそっくりそのまま再現し、仮想空間でさまざまな条件を試して、最適な方法を素早く見つけ出すシミュレーション技術です。温度や材料の濃さ、流れといった多くの要素をまとめて計算し、膨大な条件の中から一番良い成長条件を選び出すことで、実際に実験する回数を減らし、開発期間を短くするのに役立ちます。
国際会議での高い評価と国内初公開
開発グループは、2025年9月に韓国・釜山で開催されたSiCに関する国際会議「ICSCRM2025」で、溶液成長法によって作られた6インチp型SiCウエハと、6インチ・8インチn型SiCウエハを展示しました。特に、超高耐圧パワーデバイスに欠かせないp型SiCウエハの出展は、日本の企業としては初めてのことで、直流送電や大規模データセンターの電源システムなど、次の時代の社会インフラを支える新しいキーマテリアルとして、国内外から大きな注目を集めました。
今回、この国際会議で大きな反響を得たp型SiCウエハが、「SEMICON Japan 2025」で日本国内で初めて公開されます。会場では、6インチp型SiCウエハに加えて、6インチおよび8インチのn型SiCウエハも展示され、溶液成長法によって得られた大口径で欠陥の少ないSiC結晶の最新の成果が紹介される予定です。
SiCウエハの色について
SiCウエハは、含まれる不純物の種類によって色が変わります。パワー半導体に使われるウエハは、電気を通すように不純物(ドーパント)が加えられています。
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n型ウエハ(薄緑色):窒素などを加えることで、電子が電気を運び、光の吸収によって薄緑色に見えます。
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p型ウエハ(青色):アルミニウムなどを加えることで、正孔(プラスの電荷)が電気を運び、光の吸収特性によって青色に見えます。
展示内容
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展示品:6インチp型SiCウエハ、6インチ・8インチn型SiCウエハ
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展示場所:マイポックス株式会社ブース(小間番号:W3855)
今後の展望
オキサイドパワークリスタルは、大学で生まれた溶液成長法と、自社や協力企業が持つAIデジタルツイン技術、そして結晶育成技術を組み合わせることで、これまで難しかった「ウエハの大型化」と「結晶品質の向上」の両方を実現しようとしています。今後もNEDOグリーンイノベーション基金事業と協力しながら、社会で実際に使われるようになるためのステップを着実に進めることで、電力の損失を減らし、カーボンニュートラル社会の実現に貢献していくことが期待されます。
協力企業・機関

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株式会社オキサイドパワークリスタル
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マイポックス株式会社
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株式会社UJ-Crystal
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アイクリスタル株式会社
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国立研究開発法人産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター
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国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所
これらの企業・機関が協力し、次世代パワー半導体材料の開発を進めています。

