AIで理想の家探し!インドネシアの都市開発で進む、新しい住宅づくりの挑戦

生成AI(Generative AI)

三菱商事株式会社と、建築・空間デザイン分野でテクノロジーを活用する株式会社SAMURAI ARCHITECTSがタッグを組み、インドネシアの都市開発プロジェクトで新しい試みを始めました。

このプロジェクトは、画像生成AIという技術と、物事の原因と結果の関係を明らかにする「因果分析」を組み合わせることで、住宅を購入するかもしれない人たちの好みをデータとして詳しく調べることを目的としています。集まったデータをもとに、より魅力的な街づくりや住宅設計、販売方法を考える「データ・ドリブン」な都市開発を目指しています。

三菱商事とSAMURAI ARCHITECTSによる顧客調査プロジェクト

プロジェクトの背景

この取り組みの舞台は、インドネシアのジャカルタ郊外にある「BSD City」で進められている「Hiera」というスマートシティ開発プロジェクトです。このプロジェクトでは、インドネシアでは初めてとなる「公共交通指向型開発(Transit Oriented Development)」というコンセプトのもと、住宅、商業施設、学校、病院、公園、交通機関の乗り換え拠点といったさまざまな都市機能を組み合わせた、100ヘクタールを超える大規模な街づくりが進められています。

戸建て住宅の販売を成功させるためには、購入を検討している人たちがどんな家を求めているのか、どんな生活をしたいと考えているのかを正確に知ることが非常に重要です。そこで、今回のプロジェクトでは、AIとデータ分析を使って、顧客の好みを定量的に(数字で)把握し、その結果を住宅設計に反映させることで、より多くの人に喜ばれる住宅開発を目指しています。

(出典:日本経済新聞 電子版

実証実験(PoC)の内容

今回の実証実験では、顧客に特別な体験を提供し、そこから得られるデータを分析するという二つのステップで進められました。

実証実験の様子

1. 顧客体験

A. 画像生成AI体験

住宅を探している人は、AIを使って理想のインテリアデザインを体験できます。チャット形式で「豪華なシャンデリアを追加して」「ソファの色を白に変えて」といった要望を伝えると、AIがその指示に従って画像を生成し、理想の空間をリアルタイムで作り上げてくれます。これにより、自分の頭の中にあるイメージを簡単に「見える化」できるようになります。

画像生成AIでのインテリアデザイン体験

タブレットでのAI体験の様子

B. ライフスタイルブックの作成

AIでのデザイン体験が終わると、その人が作った理想のイメージをもとに、個別の「ライフスタイルブック」が作成されます。このブックには、自然や健康を重視するスタイル、家族や地域とのつながりを大切にするスタイル、都会的で効率的なスタイル、自分らしさを表現するパーソナルなスタイルなど、さまざまなライフスタイルのコンセプトがまとめられています。

ライフスタイルブックのイメージ

2. 顧客分析

AI体験で集められたデータ(生成された画像、入力された言葉、チャットのやり取りなど)は、クウジット株式会社の因果情報分析技術「CALC」を使って詳しく分析されます。因果分析とは、何が原因でどんな結果が生まれたのかを突き止めるための分析方法です。

顧客の嗜好分析の例

このデータ活用から期待できる効果:

  • モデルハウス設計: どんなインテリアの雰囲気、素材、部屋の配置が顧客に人気なのかを数字で把握し、次に開発する戸建て住宅の仕様に活かすことができます。

  • 販売マーケティング: 潜在的な顧客が何を重視しているかが分かるため、より心に響く販売戦略を立て、顧客へのアピール力を高めることができます。

これまでの調査との違い:

  • 体験性の付与: 従来のアンケートのように質問に答えるだけでなく、画像生成AIというエンターテインメント性を取り入れることで、楽しみながら主体的に参加できる調査になっています。

  • 自由入力の活用: 選択肢やテキスト入力だけでなく、AIが生成した画像や、それに対する自由な言葉、チャットの履歴など、これまでの調査では得られなかった多様で自由度の高いデータを分析対象に含めることができます。

  • 参加インセンティブの明確化: 体験の成果として、理想のイメージを「ライフスタイルブック」として個別に提供することで、調査への参加意欲や完了率を高めるとともに、参加者自身にも価値が還元されるように設計されています。

プロジェクトを支える企業の声

この実証実験は、複数の企業の協力によって成り立っています。

関係者による協力体制

株式会社SAMURAI ARCHITECTS 取締役CSO 髙山 慶太朗氏

インドネシアの都市開発という大きな挑戦に携われることを光栄に感じているとのことです。空間デザイン、画像生成AI、そして因果分析ツール「CALC」を組み合わせることで、従来は捉えにくかった潜在的な顧客のインサイトを「体験」から丁寧に可視化する革新的な試みだと語っています。この取り組みで得られた知見を、モデルハウスの設計や販売マーケティングに迅速に活かし、20年スパンで進むHieraの街づくりに貢献していきたいと考えているそうです。

三菱商事株式会社 都市開発本部 アジア都市開発部 部長 大辻 俊博氏

今回の実証実験は、顧客が参加する形で生成AI体験を調査プロセスに組み込み、顧客の生活スタイルやデザインの好みをより深く引き出し、目に見える形にする取り組みだと述べています。これからもSAMURAI ARCHITECTSと連携しながら、急速に進化するAI/IT技術を活用した先進的で価値の高い開発の形を探求していくとのことです。

PT Sinar Mitbana Mas President Director 小林 大介氏

Hieraの戸建て住宅の潜在顧客に対し、生成AIで理想の暮らしを可視化する体験を提供し、その反応や好みのデータがモデルルームづくりや住宅開発に有効かを検証しているとのことです。SAMURAI ARCHITECTSの技術を活用することで、潜在顧客の好みを定量的に分析し、可視化できることを期待していると語っています。

プロジェクト参加企業

  • 株式会社SAMURAI ARCHITECTS
    「Create a Better Place with Technology」というビジョンを掲げ、建築・建設・空間デザインの分野で、生成AIなどの最先端テクノロジーを使ったソリューションを提供しているスタートアップ企業です。リアルタイムビジュアルコミュニケーションツール「Rendery」や不動産向けホームステージングAIサービス「knock knock AI」などを提供し、業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。
    SAMURAI ARCHITECTSのロゴ

  • 三菱商事株式会社
    世界中に広がるグループ会社と協力しながらビジネスを展開する総合商社です。地球環境エネルギー、マテリアルソリューション、金属資源、社会インフラ、モビリティ、食品産業、S.L.C.、電力ソリューションの8つのグループで、貿易だけでなく都市開発や生産・製造など幅広い事業を行っています。

  • PT Sinar Mitbana Mas
    Mitbana(三菱商事とSurbana Jurongの合弁会社)とSinar Mas Landによる合弁デベロッパーです。インドネシアのジャカルタ首都圏BSD Cityで大規模なタウンシップ開発「Hiera」を進めており、地域の文化や暮らしに根ざした計画と長期的な街づくりの視点から、持続可能で魅力的な都市空間の実現を目指しています。

  • クウジット株式会社(技術協力)
    2007年にソニーコンピュータサイエンス研究所のメンバーが中心となって設立された企業です。「空」と「実」をつなぐ技術で社会に貢献することを理念としています。因果情報分析技術「CALC」を核にした要因分析や課題抽出、未来予測などのAI機械学習・データ解析ソリューションを提供しています。
    共創事業サイト:https://team-koozyt.com/

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