介護・障害福祉現場の8割でAI利用ルールなし!従業員満足度向上には「年収アップ」より「AI活用ルール整備」が効果的と判明

生成AI(Generative AI)

介護・障害福祉現場のAI活用実態が明らかに

介護や障害福祉の現場で、人工知能(AI)の活用が急速に進んでいます。しかし、その一方で、多くの職場でAI利用に関する明確なルールが定まっていない実態が、株式会社パパゲーノが運営する「パパゲーノAI福祉研究所」の調査で明らかになりました。

調査概要と背景

この調査は、2025年11月25日から12月6日にかけてオンラインで実施され、184名の福祉従事者から回答を得ました。介護・障害福祉の現場では「生成AI」や「ChatGPT」といった言葉を耳にする機会が増えているものの、「個人情報をAIに入力して大丈夫なのか」「学ぶ時間がない」といった期待と不安が混在している状況が背景にあります。

今回の調査では、現場でのAIの使われ方、導入への不安、必要なサポートなどを把握し、業界全体がAIと適切に向き合うための指針づくりに貢献することを目指しています。

調査で判明した主なポイント

介護福祉施設のスタッフの半数以上が週3日以上AIを使用

調査によると、回答者の半数以上(55.4%)が週3回以上AIを使用していることが分かりました。週1〜2回程度の利用者を含めると、71.2%が週1回以上生成AIを使っています。

生成AIの利用は2025年に急増

生成AIを使い始めた時期を見ると、回答者の40.7%が2025年から利用を開始しています。このことから、2025年に入ってから生成AIの利用が急速に拡大していることが分かります。

生成AIを使い始めた時期

無料版AIの個人利用が44.4%で個人情報漏洩リスクが高い状態

生成AIを利用したことがある回答者(全体の78%)に利用環境を尋ねたところ、44.4%が個人で無料版のサービスを利用していると回答しました。個人で有料版を利用している人も26.5%おり、事業所が関与しない形でのAI利用が多数を占めている状況です。これは個人情報漏洩のリスクが極めて高い状態であると指摘されています。

生成AI系のサービスの利用環境

法人形態別にみると、社会福祉法人では68%が個人での無料版サービスを利用しており、最も顕著に個人での無断利用が見られました。

法人格別のAIサービス利用状況

8割の職場でAI活用ルールが未整備

職場で生成AIの明確なガイドラインやルールがあるのはわずか19.8%にとどまり、「ない」が69.1%、「分からない」が11.1%で、合計80.2%の職場でルールが整備されていないことが判明しました。

職場の生成AIルール

また、利用者に関する記録や計画書の作成に生成AIを使用したことがある人は48.2%に上りますが、その利用について上司に報告・相談している人は41.4%にとどまっています。事業所が把握していない「シャドーAI」の存在が浮き彫りになり、早急なルールづくりが求められています。

記録等への生成AI利用報告・相談状況

従業員満足度向上には「AI活用ルール整備」が「年収アップ」の約2.2倍効果的

従業員満足度(eNPS)に関する分析では、社会福祉法人や医療法人で働くスタッフの満足度が低い傾向が見られました。さらに、重回帰分析の結果、AI活用ルールの整備が従業員満足度に与える影響は、年収アップの約2.2倍であることが判明しました。

重回帰分析の結果

これは、「給料が低いから従業員満足度が低いのは仕方ない」という従来の考え方とは異なる結果です。AI活用ルールの整備は、組織の方針の明確さや新技術への前向きな姿勢を示すことで、従業員満足度に大きく貢献すると考えられます。

9割超が「AIの使い方を学ぶ機会が必要」と回答

回答者の92.9%が「AIの使い方を学ぶ機会が必要」と感じており、AI関連研修への参加意向も88.3%と非常に高いことが分かりました。学びたい内容としては、生成AIの適切な使い方(プロンプトの書き方など)、福祉・介護現場でのAI活用事例、生成AIの限界とリスク(ハルシネーション、バイアスなど)、個人情報保護とAIなどが挙げられています。

福祉・介護の専門職向け研修で学んだAI関連の内容

また、46.2%の人が、生成AIに頼りすぎると専門職としての思考力や判断力が低下すると実感しています。

生成AIに頼りすぎると専門職としての思考力や判断力が低下する

調査結果からの提言

パパゲーノAI福祉研究所は、今回の調査結果を踏まえ、福祉現場の経営者・管理職に向けて以下の3点を提言しています。

  • 事業所でのAI活用ルールを明確にする

    • 既にAIが使われている現状を踏まえ、どのような場面でどのように使うべきかを明確にすることで、スタッフが安心してAIを活用できる環境を整えることが重要です。特に社会福祉法人や医療法人では、ルール整備が従業員満足度向上につながる可能性が示唆されています。
  • 「AI導入で大きな変更が必要」と感じさせない

    • AIは業務を根本から変えるものではなく、日々の業務を少し楽にするツールとして位置づけ、既存業務に馴染みやすい形で段階的に導入することが望ましいです。
  • 支援現場での「AIの正しい使い方」の研修に投資する

    • 現場の学ぶ意欲は高く、生成AIの基礎や情報セキュリティ研修を通じて、事故を未然に防ぐための投資が必要です。

関連情報

本調査のデータは、可視化されたTableau Publicのダッシュボードで確認できます。

また、調査結果のローデータや分析結果データは、パパゲーノAI福祉研究所のウェブサイトで公開されており、介護福祉業界のAI活用発展に寄与する目的であれば自由に再解析が可能です。

株式会社パパゲーノについて

株式会社パパゲーノは、「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指し、「リカバリーの社会実装」を事業を通して行っています。精神・発達障害のある方を対象とした就労継続支援B型事業所「パパゲーノ Work & Recovery」の運営や、支援現場のDXアプリ「AI支援さん」の開発・提供などを行っています。

株式会社パパゲーノの事業

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