介護・障害福祉現場のAI利用実態調査から見えた「ルール整備」の重要性

生成AI(Generative AI)

介護・障害福祉の現場では、「生成AI」や「ChatGPT」といった言葉を耳にする機会が増え、その活用への期待が高まっています。一方で、「個人情報をAIに入れても大丈夫なのか」「どう使えばいいのか分からない」といった不安の声も少なくありません。このような状況を受け、株式会社パパゲーノが運営する「パパゲーノAI福祉研究所」は、介護・障害福祉の現場における生成AIの活用実態を明らかにするための調査を実施し、その報告書を2025年12月21日に公表しました。

介護・障害福祉現場でのAI利用の現状

調査によると、回答者の半数以上(55.4%)が週に3回以上AIを使用しており、週に1回以上使用している人を含めると71.2%に上ります。
生成AIツールの利用頻度を示す棒グラフ
生成AIを使い始めた時期については、2025年から使い始めた人が40.7%と最も多く、この1年で利用が急速に広がっていることがわかります。
生成AIを使い始めた時期別の件数と割合を示す表

しかし、AIツールの利用環境を見ると、無料版のサービスを個人で使っている人が44.4%と最も多く、個人で有料版を使っている人も26.5%いました。これは、個人でAIを使っている人が多く、個人情報が漏れてしまうリスクが非常に高い状態にあることを示しています。

特に社会福祉法人では、個人による無断のAI利用が顕著に見られると報告されています。
様々な法人形態における、事業所導入サービス、個人での有料版サービス、個人での無料版サービスの利用率を比較した表

AIの利用目的としては、プライベートな利用のほか、会議録や議事録の作成、マニュアル・手順書の作成、利用者や家族への説明資料作成などが挙げられました。さらに、利用者に関する記録や計画書の作成に生成AIを使ったことがある人は48.2%に上り、これは配慮が必要な個人情報がAIに入力されている可能性を示唆しています。

職場のAI活用ルールと従業員満足度

AIの利用が広がる一方で、職場で生成AIを使うための明確なルールやガイドラインがあるのはわずか19.8%にとどまりました。実に80.2%の職場でルールが整備されていない状況です。
生成AIの職場での利用に関するアンケート結果を示す表
また、記録などに生成AIを使うことについて、上司や同僚に報告・相談している人は41.4%に過ぎず、多くの事業所が知らないうちにAIが使われている「シャドーAI」の存在が浮き彫りになりました。
記録等での生成AI利用に関するアンケート結果の表
この状況は、生成AIの適切な利用と個人情報保護の観点から、職場のルール作りが急務であることを示しています。

興味深いことに、従業員満足度(eNPSスコア)に関する分析では、AI活用ルールの整備が従業員満足度に与える影響が、年収アップの約2.2倍も効果的であるという結果が出ました。
NPSに影響を与える要因を重回帰分析した結果を示す表
これは、「お給料が低いから従業員満足度が低い」という従来の考え方だけでなく、組織として新しい技術に前向きな姿勢を示し、スタッフへの配慮やサポート体制を整えることが、従業員の満足度向上に大きく貢献することを示唆しています。特に社会福祉法人や医療法人では、従業員満足度が低い傾向にあることも明らかになりました。

研修ニーズと専門職の意識

現場のスタッフはAIについて学ぶ意欲が非常に高く、92.9%が「AIの使い方を学ぶ機会が必要」と回答し、88.3%がAI関連研修への参加意向を示しました。学びたい内容としては、生成AIの適切な使い方(プロンプトの書き方など)、福祉・介護現場でのAI活用事例、生成AIの限界とリスク(ハルシネーション、バイアスなど)、個人情報保護とAIなどが挙げられています。
福祉・介護の専門職向け研修で学んだAI関連の内容と割合を示した表
一方で、46.2%の人が「生成AIに頼りすぎると専門職としての思考力や判断力が低下する」と感じており、AIを便利に使いながらも、専門職としての能力を保つことへの意識も高いことがうかがえます。
生成AIへの過度な依存が専門職の思考力や判断力を低下させるかについてのアンケート結果を示す表

調査結果と提言

この調査結果は、介護・障害福祉の現場がAIとどう向き合うべきかについて、重要な方向性を示しています。パパゲーノAI福祉研究所は、現場の経営者・管理職に対し、以下の3点を提言しています。

  • 事業所でのAI活用ルールを明確にする: 従業員が安心してAIを使えるよう、どのような場面で、どのように使ってよいのかを具体的に示すことが重要です。これにより、「シャドーAI」を防ぎ、個人情報漏洩のリスクを減らすことができます。

  • 「AI導入で大きな変更が必要」と感じさせない: AIは日々の業務を少し楽にするツールとして位置づけ、段階的に導入を進めることが望ましいです。

  • 支援現場での「AIの正しい使い方」の研修に投資する: 現場の学ぶ意欲に応え、生成AIの基礎や情報セキュリティに関する研修を提供することで、事故を未然に防ぎ、AIを安全かつ効果的に活用できるようになります。

この調査の詳しいデータは、以下のダッシュボードで確認できます。

また、調査結果のローデータや分析結果データは、パパゲーノAI福祉研究所のウェブサイトで公開されており、介護福祉業界のAI活用発展に貢献する目的であれば、自由に再解析が可能です。活用する際は「パパゲーノAI福祉研究所」と出典を明記するよう呼びかけられています。

株式会社パパゲーノは、「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指し、精神・発達障害のある方を対象とした就労継続支援B型事業所「パパゲーノ Work & Recovery」の運営や、支援現場向けのDXアプリ「AI支援さん」の開発・提供を行っています。
生成AIを活用し、個人の可能性を広げる取り組みを示す図
同社は、介護福祉施設向けの生成AI研修や情報セキュリティ研修、社内ポリシー策定コンサルティングも提供しており、AI活用に関する相談を受け付けています。

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