TOPPAN、国産LLMで「次世代自動同時通訳システム」を熊本城ミュージアムで実証実験

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TOPPANが国産LLMを活用した次世代自動同時通訳システムを熊本城ミュージアムで実証

TOPPAN株式会社は、最新のAI技術である大規模言語モデル(LLM)を用いた「次世代自動同時通訳システム」の実証実験を、熊本城ミュージアム「わくわく座」で実施しました。

この実験は、2025年11月23日から12月22日まで行われ、LLMを活用することで、より高精度で自然な同時通訳システムの実現を目指しています。特に、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)の協力のもと、国産LLMを使った同時多人数への自動同時通訳は日本で初めての試みとなります。

熊本城の航空写真が映し出されたスクリーン前で、女性が聴衆にプレゼンテーションを行っています。スクリーンには多言語の字幕が表示され、熊本城の特別見学通路や歴史について説明されています。

LLM(大規模言語モデル)とは?

LLMとは、私たちが普段使っている言葉をコンピューターが理解し、まるで人間のように自然な文章を作り出せるように学習したAIのことです。大量の文章データを学ぶことで、文脈を読み取ったり、表現を調整したりすることが得意になります。この技術を翻訳に応用することで、これまでの機械翻訳よりも、もっと自然で分かりやすい通訳ができるようになると期待されています。

実証実験の背景

近年、自動同時通訳の技術は、音響機器との連携や専門用語の登録、字幕の表示方法の工夫などにより、大きく進化してきました。展示会や国際会議といった専門性の高い場面でも、高精度な自動同時通訳が求められています。

TOPPANは、2020年から5年間実施された総務省の委託研究や、大阪・関西万博での自動同時通訳システムの運用を通じて、この技術の社会での活用を進めてきました。これらの経験を活かし、文脈や背景を理解した、より高度な多言語対応が可能な次世代システムの開発に着手し、今回の実証実験を行うことになりました。

実証実験の概要

今回の実証実験では、熊本城ミュージアム「わくわく座」の2階「ものがたり御殿」で上演される「熊本城VRガイド」のセリフやナレーションを、自動同時通訳システム「LiveTra®」の技術を基に、字幕スクリーンに投影しました。対応言語は、英語、中国語(繁体字)、韓国語の3言語で、来場者の母国語に合わせて複数の言語を同時に表示しました。

目的 国産LLMを活用した次世代自動同時通訳システムの有用性の検証
検証方法 わくわく座ものがたり御殿舞台横の字幕スクリーンに、上演演目内のセリフやナレーションの自動同時通訳を字幕で投影。英語・中国語(繁体字)、韓国語の3言語に対応し、来場者の母国語に合わせて複数言語を同時に字幕表示。
場所 熊本城ミュージアムわくわく座 2階 ものがたり御殿
実証演目 「熊本城VRガイド」
期間 2025年11月23日~2025年12月22日まで ※検証は不定期で実施 ※実証実験終了後も2026年2月27日まで稼働を継続し、効果検証を実施
対応言語 英語、中国語(繁体字)、韓国語
検証項目 ・体験価値や理解度向上への貢献度 ・内容の質と表現の適切性 ・字幕のタイミング(表示速度) ・他施設展開への期待(アンケートで把握)
確認された結果 ・各言語で翻訳精度が高く、理解度・体験価値の向上に大きく寄与することを確認。
・翻訳表示の速度は概ね良好だったが、言語や発話速度により追従しきれない場面があり、改善課題として確認。
・多くの来場者から他施設への展開に関する期待を確認。

このシステムは、LLMを翻訳に特化させて軽量化した「小型LLM(s-LLM)」を用いることで、インターネットに接続しない「スタンドアローン環境」のノートパソコンでも動作させることができました。これにより、通信環境に左右されずにどこでも使える可能性が広がります。

熊本城ミュージアム「わくわく座」は、外国人観光客の増加に対応するため、VR映像などの最新技術を積極的に導入し、来場者の体験価値向上に取り組んでいます。今回の実証実験は、この取り組みをさらに発展させ、多言語対応を強化する一歩となりました。

LLM次世代自動同時通訳システムの今後の可能性

TOPPANは、LLMを活用した次世代同時通訳システムによって、以下の3つの実現を目指しています。

  1. 文脈や背景を踏まえた自動同時通訳
    これまでの自動同時通訳システムが苦手としていた、文章全体の意味や背景を理解した、一貫性のある高精度な通訳が可能になります。
  2. 自動同時通訳の多言語対応
    一つのシステムで多くの言語を処理できるようになるため、より幅広い言語に対応した自動同時通訳が実現します。
  3. 専門用語への対応
    特定の業界や用途に合わせて追加学習(ファインチューニング)を行うことで、専門用語や固有名詞の翻訳精度を向上させることができます。

今後の展開

TOPPANは、今回の実証実験で得られた結果を踏まえ、LLMを活用した次世代自動同時通訳システムの開発をさらに進め、2026年度中の実用化を目指しています。将来的には、プレゼンテーションや、日本を訪れる外国人(インバウンド)対応、在留外国人の方々とのコミュニケーションなど、様々な場面でこの技術を展開していく予定です。TOPPANの多言語サービス全体で、2028年までに約20億円の売上を目指すとのことです。

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