JCHO北海道病院、AIカルテ下書き実証で医療現場のDXを推進
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)北海道病院は、株式会社プレシジョン、株式会社シーエスアイ、NTTドコモビジネス株式会社と協力し、AI(人工知能)を使ったカルテ下書きシステムの導入実証を始めました。この取り組みは、厚生労働省の「ICT機器を活用した勤務環境改善の先駆的取組をおこなうモデル医療機関調査支援事業」に選ばれており、医師の記録業務の負担を減らし、患者さんとの対話時間を増やすことを目的としています。

医療現場の課題とAI活用の背景
現在の医療現場では、医師の長時間労働が大きな問題となっています。特に、カルテ作成などの記録業務は、医師にとって大きな負担です。JCHO北海道病院は、この課題を解決するため、AI音声認識システム、スマートフォン、そして電子カルテシステムを連携させることを目指し、厚生労働省の事業に応募し採択されました。
この新しい取り組みにより、診察からカルテ記録までの一連の業務をAIで効率化し、医師の負担を軽減します。それによって、医師が患者さんと直接向き合う時間を増やし、医療の質と患者さんの満足度をさらに高めることを目指しています。
国内初の取り組み概要
今回の実証では、診察室での会話をスマートフォンのマイクで入力します。その音声データは、医療情報保護の基準に沿った病院内の安全なネットワーク環境で、AI音声認識システムによって文字に変換されます。さらに、病院内に設置されたAIサーバーがその内容を分析し、要点をまとめてカルテの下書きを自動で作成します。これにより、すべての処理が病院内で完結するため、情報が外部に漏れる心配がありません。
特に、スマートフォンを音声入力に使い、病院内のAIがカルテの下書き(SOAP形式)を作り、それを電子カルテに取り込むまでの一連の流れを、医療機関で実現するのは国内で初めての試みです。
*2026年1月時点でのJCHO北海道病院、プレシジョン、シーエスアイ、NTTドコモビジネスによる調査に基づく。
対象と目的
-
対象: 総合診療科、その他の内科系専門診療科に先行導入されます。
-
目的:
-
医師の電子カルテ記録時間の削減。
-
医師の患者さんとの対話時間の拡大。
-
各社の役割
-
JCHO北海道病院: モデル医療機関として、この事業を主体的に実施・展開します。
-
株式会社プレシジョン: AI音声認識システム「今日のAI音声認識」を開発・提供します。
-
株式会社シーエスアイ: 電子カルテシステム「MI・RA・Is V」との連携を構築します。
-
NTTドコモビジネス株式会社: スマートフォンの導入・運用支援、および利用環境の提供・構築を行います。
システムの詳細
1. AI音声認識システム「今日のAI音声認識」
このシステムは、医師と患者さんの会話をリアルタイムで認識し、自動でカルテの下書きを作成する、医療に特化した音声認識ソリューションです。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)で開発された大規模言語モデル(LLM)という、AIが自動で文章を作る仕組みを活用しています。

システムの特徴や機能については、以下の画像もご参照ください。

紹介動画はこちらからご覧いただけます。
今日のAI音声認識 紹介動画
2. 電子カルテとの連携
「今日のAI音声認識」と、シーエスアイが提供する最新の電子カルテシステム「MI・RA・Is V」が連携します。AIが作ったカルテの下書きを、簡単な操作で電子カルテに取り込めるようになり、記録業務を大幅に効率化することが期待されます。この連携には、安全で他のシステムとも連携しやすい「SMART on FHIR」という形式が採用されています。
3. スマートフォンの活用
診察室での音声入力端末として、NTTドコモビジネスが提供するスマートフォンを使用します。NTTドコモビジネスは、これまでの医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の経験を活かし、安全性が確保されたスマートフォンの利用環境を提供することで、病院や職員が安心してシステムを使えるように支援します。

期待される効果
1. 医師の業務負担軽減と患者さんとの対話回復
海外では、AIを活用した診療記録の支援によって、記録業務にかかる時間が大幅に減ったという報告があります。この取り組みでも同様の効果が期待され、医師はより多くの時間を患者さんとの対話に使うことができ、患者さんは安心して治療を受けられるようになるでしょう。
別の医療機関での参考データでは、「今日のAI音声認識」を使うことで、再診患者さんの診察時間が20%以上短縮されたという結果が出ています。
-
音声認識を使用した場合: 10分43秒
-
音声認識を使用しない場合: 13分9秒
2. 待ち時間の減少
医療従事者の記録作業が減ることで、一人ひとりの患者さんへの対応が早くなり、スムーズな医療提供が可能になります。これにより、患者さんの待ち時間も短縮されることが期待されます。
3. 場所を選ばない医療DXの実現
スマートフォンを使った音声認識は、従来の診察室に縛られた医療体制を変え、より効率的な医療の運営を可能にします。
4. 堅牢な情報管理体制の実現
このシステムでは、音声データを含むすべての診療情報の処理を病院内の安全な環境で完結させます。これにより、患者さんの個人情報が外部のクラウドサービスに送られることなく、高いセキュリティで保護され、情報漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。
今後の展望
JCHO北海道病院、プレシジョン、シーエスアイ、NTTドコモビジネスの4者は、この事業の成功に向けて協力し、JCHO北海道病院での運用で得られた経験を基に、システムのさらなる改善や開発を進めます。将来的には、看護記録やリハビリ記録など、他の業務への展開や、JCHOグループ病院、さらには全国の医療機関への導入も検討されています。
JCHO北海道病院の古家 乾院長は、「日本語の医療データや文化、制度をAIが理解できるようになれば、AIが医療情報の世界でデジタルツイン(現実世界をコンピューター上で再現する技術)のような役割を果たす日が来ると期待しています。スマートフォン一つで、医療者と患者さんの自然なコミュニケーションを保ちながら、正確な診療記録や共同意思決定(SDM)、人生会議(ACP)の記録などをサポートできる日が来るでしょう」とコメントしています。
参考情報
-
厚生労働省「ICT機器を活用した勤務環境改善の先駆的取組をおこなうモデル医療機関調査支援事業」について
厚生労働省ウェブサイト -
医療情報保護に関するガイドライン
厚生労働省ウェブサイト -
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)について
内閣府ウェブサイト -
米国におけるAI診療記録作成システムの導入事例
Penn Medicineニュース

