
2026年1月20日、株式会社シンク・ネイチャー、バイオロギングソリューションズ株式会社、Koudou Labの3社は、東京大学大気海洋研究所の佐藤克文教授をアドバイザーに迎え、洋上風力発電の環境影響評価を高度化する共同プロジェクトを始めました。
このプロジェクトは、生き物に小さな記録計(バイオロギング)を取り付けて得られる行動データと、さまざまな生き物の情報を集めた「生物多様性ビッグデータ」を組み合わせることで、自然への影響をより詳しく評価することを目指しています。地球温暖化対策のための「脱炭素」と、自然を回復・豊かにする「ネイチャーポジティブ」を同時に達成するための、新しい環境影響評価の仕組みづくりが目的です。
なぜこのプロジェクトが必要なの?
行政・政策の視点:再生可能エネルギーと生物多様性の両立
日本は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出を減らす「GX(グリーントランスフォーメーション)」を進め、同時に「生物多様性国家戦略」や「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」といった、自然を大切にする取り組みも進めています。洋上風力発電のような再生可能エネルギーを増やすことは大切ですが、同時にそれが自然にどんな影響を与えるかを正確に評価し、地域の人々の理解を得ることが大きな課題となっています。
これまでの環境影響評価では、調査できる場所や期間が限られていたため、野生生物がどこで暮らし、どのように移動しているかを十分に把握できないという課題がありました。そこでこのプロジェクトでは、バイオロギングで得られる野生生物の詳しい行動や移動のデータと、生物多様性ビッグデータを合わせて分析します。これにより、風力発電施設と野生生物の生活圏や移動経路がどれくらい重なるか、衝突のリスクはどの程度か、といったことを広い範囲で詳しく評価できるようになります。
この取り組みは、環境影響評価の科学的な精度を高め、透明性を向上させるだけでなく、再生可能エネルギーを導入する際の生物多様性への配慮の具体的な方法を示し、国や自治体が計画を立てる段階での対策検討を支援します。また、地域の人々が納得するための客観的なデータを提供することで、科学的な知見と政策を結びつけ、自然を大切にする社会を実現するモデルとなることが期待されます。
金融・ビジネス/ESGの視点:自然に関わるリスクを見える化
最近、金融機関や投資家は、気候変動だけでなく、企業活動が自然や生態系に与える影響(自然関連リスク)についても注目しています。洋上風力発電のような大規模な再生可能エネルギー事業は、自然に悪い影響を与えてしまうと、事業の遅れや新しい規制、企業のイメージダウンにつながる可能性があります。
このプロジェクトは、野生生物の「どこが住みやすい場所か」や「どのように行動するか」といった高精度のデータを使って、自然に関わるリスクをより具体的に見える化します。これにより、事業の初期段階で生物多様性に関するリスクを把握しやすくなります。また、企業が自然に関するリスクや機会を公開する枠組みである「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」や、環境・社会・企業統治に配慮した投資(ESG投資)の評価に役立つ科学的な根拠を提供します。これにより、事業中断や社会からの反発といったリスクを減らし、自然を回復・豊かにする投資の透明性を高めることで、持続可能な投資判断をサポートします。
今後の展開
プロジェクトの最初の段階では、すでに集められているバイオロギングデータを使って、風力発電施設と野生生物の移動経路がどれくらい重なるか、鳥が風車にぶつかるリスク(バードストライク)などを整理し、見える化していく予定です。このプロジェクトの特徴は、集めたデータをそのまま提供するだけでなく、高度な分析と分かりやすい整理を通じて、政策や投資、事業の判断に役立つ「賢い情報」として提供する点にあります。
学術的な論文発表だけでなく、ホワイトペーパー(報告書)の形で途中の成果を積極的に公開することで、政策や市場、金融の関係者との議論を早め、自然を大切にするための評価基準やルール作りをリードしていくでしょう。中長期的には、洋上風力発電を具体的な例として知識を蓄積し、制度設計やガイドラインの整備、そして持続可能な投資判断に役立てるための社会での活用を進めていく計画です。
プロジェクト参加企業
株式会社シンク・ネイチャー
マクロ生態学や生物多様性保全科学の専門家が集まるグローバル企業です。世界中の自然に関するデータ(生き物の分布、遺伝子、生態など)を統合し、AIなどの最新技術を使って自然の状況を予測したり、未来のシナリオを分析したりする技術を持っています。TNFDのデータに関する取り組みにも参加し、金融機関や企業が生物多様性に対応するための支援を行っています。
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ウェブサイト: https://think-nature.jp
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J-BMP(日本の生物多様性地図化プロジェクト): https://biodiversity-map.thinknature-japan.com/
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GBNAT: https://lp.gbnat.com/jp/
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TN LEAD(TNFD対応支援サービス): https://think-nature.jp/service/
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TN GAIN(ネイチャーポジティブ事業の効果測定サービス): https://services.think-nature.jp/gain/
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日本生態学会自然史研究振興賞: https://note.com/thinknature/n/n885ba7f11009
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ジュゴンズアイ(DugongsAI)β版(無料スマホアプリ): https://services.think-nature.jp/dugongsai/
Biologging Solutions株式会社
10年以上にわたり、陸の動物や海の魚など、さまざまな野生生物の行動や移動、環境データを高精度に取得するバイオロギング機器と、そのデータ活用をサポートする企業です。GPS首輪や小型記録計の開発・製造から、クラウドでのデータ管理、地図表示、レポート作成までを一貫して提供し、研究機関や行政、企業の意思決定を支えています。集めたデータを「使える知識」に変え、自然を大切にする社会の実現に貢献します。
Koudou Lab
野生動物の行動を「見える化」するバイオロギング研究を中心に行う個人事業です。海鳥や魚、陸の哺乳類など、さまざまな動物に小型の記録計を装着し、データから動物が「どこで」「どのように」行動しているかを読み解いています。集められたデータはコンピュータで分析・可視化され、動物の移動や食事の取り方、周囲の環境との関係を理解する手がかりとなります。この研究は、自然環境の保全や人と自然のより良い関係づくりにも役立てられています。また、バイオロギングデータ共有プラットフォーム(BiP)のデータ解析方法の開発や解説、YouTubeチャンネルでの情報発信も行っています。

