AI活用の新たな一歩:AIモデルが「チーム」を組む時代へ
近年、AIの活用はさまざまな分野で進んでいますが、一つの大きなAIだけでは解決が難しい、専門的で複雑な課題が増えてきています。例えば、社会インフラや医療現場のように、非常に専門的な知識や状況に応じた判断が求められる場面では、汎用的なAIだけでは対応しきれないことがあります。
そこで注目されているのが、「マルチエージェント」という考え方です。これは、特定の分野に特化した複数の小さなAIモデル(この記事では、主に文章を生成するAIである言語モデルを指します)を連携させ、お互いに協力し合うことで、複雑な課題を解決しようとするものです。しかし、数多くあるAIモデルの中から、どのAIとどのAIを組み合わせれば最も効果的なチームを作れるのか、その「相性」を見つけるのは非常に難しいという課題がありました。特に、内部の仕組みが公開されていない「ブラックボックスAI」と呼ばれる商用AIモデルでは、事前にその特性を把握することが困難でした。
日立が開発した「会話ベースAIオーケストレーション技術」とは
このような課題に対し、日立は、AIモデル同士の会話から互いの相性を見つけ出し、高性能なAIチームを自動で編成する「会話ベースAIオーケストレーション技術」を開発しました。この技術は、AIモデルの内部構造や事前の評価データがなくても使えるのが大きな特長です。
AIモデルが「会話」で相性を見つける仕組み
この技術の核となるのは、AIモデル同士が自律的にテキストを生成し、応答し合う「会話」です。人間が介在することなく、AIモデルたちが特定のトピックについて話し合い、そのやり取りがどれだけ意味的にかみ合っているかを分析します。この「会話の噛み合い方」から、AIモデル同士の協調性や専門性といった関係性を数値化し、「言語モデルグラフ」という形で分かりやすく可視化・構造化します。
このグラフを解析することで、人が一つ一つ試すことなく、相性の良いAIモデルの組み合わせを自動で探し出すことが可能になります。つまり、従来の「タスクに合わせて役割を決める」というトップダウン型のアプローチではなく、「AIモデル同士の会話から相性を見極めて、タスクに適したチームを編成する」というボトムアップ型のアプローチで、現場のニーズに合わせたAIチームを構築します。

この技術の特長
1. AIモデル間の関係性をグラフ化し、最適なAIチームを自動編成
この技術は、AIモデル同士の会話の記録・分析から、互いの発言内容がどれだけ意味的に通じ合っているか(相性)を評価し、協調性や専門性の発揮度合いを数値化します。この情報を「言語モデルグラフ」として可視化・構造化することで、人手による試行錯誤なしに、相性の良いAIモデルの組み合わせを自動的に抽出できます。会話のトピックを変えることで、さまざまな分野や業務に対応したAIチームを柔軟に編成できます。
2. さまざまなAIモデルを公平に評価・活用
この技術は、AIモデル間の「会話」(出力結果)のみに基づいてチーム編成を行います。そのため、内部の仕組み(学習データやパラメータ)が見えない「ブラックボックスAI」と呼ばれる商用モデルや、オープンソースのモデルであっても、その応答内容や協調の度合いから客観的かつ公平に評価できます。これにより、特定のベンダーやクラウド環境に縛られず、多様なAIモデルを柔軟に組み合わせて活用することが促進され、マルチクラウドやマルチベンダー戦略を目指す企業にとって大きな助けとなります。
確認された効果とこれからの展望
日立が行った実験では、数学や医療に特化したAIモデルと汎用AIモデルを混ぜてチームを編成したところ、この技術で自動編成されたチームは、無作為に選ばれたチームよりも最大で13%高い正答率を記録しました。これは、専門家がAIモデルの仕様に基づいて手動で編成したチームに匹敵する性能です。この結果は、会話内容からモデルの特性を捉えてチーム編成を行う本技術の有効性を示しています。
日立は今後、この技術を社内外に展開し、鉄道やエネルギーなどの社会インフラ、製造業、医療といった多岐にわたる現場の課題解決を支援していきます。日立が提供するソリューション群「HMAX」を通じて、IT(情報技術)とOT(制御・運用技術)、そして製品が連携することで、社会インフラの高度化と現場の価値最大化を推進していく予定です。
関連情報
-
日立の研究開発ウェブサイト: https://www.hitachi.co.jp/rd/
-
日立公式サイト: https://www.hitachi.co.jp/
-
AI戦略2022の概要: https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/aistrategy2022_gaiyo.pdf
-
人工知能基本計画 – 科学技術・イノベーション – 内閣府: https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_plan/ai_plan.html

