「生体組織」と「機械」の融合で広がる未来:バイオハイブリッド技術の最新動向をわかりやすく解説

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バイオハイブリッドシステムとは?

「バイオハイブリッドシステム」とは、私たちの体にある細胞や組織といった「生体由来の材料」と、電子部品や機械のような「人工的な構造物」を一つにまとめる技術のことです。この技術は、生き物が持っている高いセンサー能力、自分で傷を直す力、そして効率よく動く力を、そのまま機械に応用しようというものです。

この技術は大きく分けて、動くことを得意とする「バイオハイブリッドロボット」と、何かを感知することを得意とする「バイオハイブリッドセンサー」の2種類があります。

  • バイオハイブリッドロボット:生体組織がモーターのように動く役割をします。例えば、培養した筋肉細胞を使って二足歩行や方向転換をするロボットや、生きている皮膚で覆われた指型のロボットなどが開発されています。これは、ロボット工学の新しい分野として注目されています。

  • バイオハイブリッドセンサー:生きた細胞が何かを感知したときの反応を、人工的な装置で信号に変える技術です。昆虫の嗅覚や味覚の仕組み、または細胞膜などを利用して、ごくわずかな化学物質を見つけ出すことが可能になります。

このバイオハイブリッドシステムは、病気の診断に使う医療機器、人工臓器、食品の安全検査、環境の監視、そして人と一緒に働くロボットなど、さまざまな分野での活躍が期待されています。日本政府もこの分野を重要な国家戦略の一つとして位置づけ、研究開発を積極的に進めています。まさに、生物学と工学が融合して新しい産業を生み出し、社会のさまざまな問題を解決する次世代の技術として、その進化に大きな注目が集まっています。

バイオハイブリッド技術に関する特許の動向

アスタミューゼ株式会社の特許データベースによると、「バイオハイブリッド」関連の特許は34件見つかりました。特許は、実際に社会で使われることが近い技術や、すでに使われている技術が多いと言えます。これらの特許は、主に7つのカテゴリに分けられます。

特許のカテゴリ分類

特に多かったのは「筋肉アクチュエータ・組織工学」と「バイオハイブリッドセンサー」のカテゴリです。具体的な特許事例として、以下のようなものがあります。

  • US10906169B1「筋肉駆動型生物学的機械」

    • アメリカのイリノイ大学が開発したもので、3Dプリンターで作った骨格に、筋肉と神経が一体となった組織を取り付けた「生物学的機械」です。光や化学物質、電気刺激で筋肉の動きを細かくコントロールできます。
  • US2020/0371530A1「バイオハイブリッド臭気誘導型自律手のひらサイズ航空機」

    • アメリカ空軍が開発した「Smellicopter」という、蛾の触覚(センサー)を搭載した手のひらサイズのドローンです。蛾の触覚は、従来の化学センサーよりも高い感度と速さで臭いを検知し、GPSがなくても臭いの元を特定して地図を作ることができます。

バイオハイブリッド技術に関する論文の動向

企業や研究機関が発表する論文は、まだ研究開発の段階にあり、特許に比べて社会で使われるまでに時間がかかる技術が多いです。バイオハイブリッドに関連する論文は1,326件抽出されました。

論文の内容を特許と同じように分類すると、「生体分子・タンパク質複合体」、「細胞・組織工学バイオハイブリッド材料」、「バイオハイブリッドセンサー」に関するものが半数以上を占めています。

論文のカテゴリ分類

特許が筋肉の動きや心臓のような「大きな動力源」の実用化に注目しているのに対し、論文ではタンパク質や細胞レベルでの人工材料との組み合わせなど、よりミクロな視点での研究が進められていることがわかります。これは、生物の機能をただ機械の代わりにするだけでなく、もっと細かいレベルで人工材料と生物の仕組みを統合する、次の世代のバイオハイブリッド技術の基礎を築いている段階と言えるでしょう。

未来を予測するキーワード分析

2015年以降の論文に含まれるキーワードの移り変わりを分析することで、これから注目される技術の要素を予測する「未来推定」分析が行われました。これにより、どの技術が盛り上がり、どの技術がこれから脚光を浴びるのかがわかります。

論文キーワードの年次推移

近年特に増えているキーワードを見ると、技術がより深く、そして応用範囲が広がっていることがわかります。例えば、「bioprinting(バイオプリンティング)」や「scaffolds(足場材料)」といった、組織を人工的に作る技術に関するキーワードや、「neuromorphic(ニューロモーフィック)」や「bioelectronic(バイオエレクトロニクス)」など、人間の神経の仕組みを人工的に再現しようとするキーワードが2020年以降に増えています。これは、シミュレーションの段階ではありますが、神経の仕組みを真似た学習や信号の制御に関する研究が進んでいることを示しています。また、「microrobot(マイクロロボット)」や「nanoscale(ナノスケール)」といった、より高度な小型ロボットや、体に埋め込める「implantable(インプラント可能)」なデバイスの開発も目指されているようです。

エネルギー変換の分野では、「biocatalysts(バイオ触媒)」や「hydrogenase(水素生成酵素)」、そしてこれらを組み合わせた「solar-driven(太陽光駆動)」といったキーワードが見られます。これは、生物が持つ優れた触媒の能力を人工的な電極と組み合わせ、環境に優しい水素を作ったり、物質を生産したりする、グリーンエネルギーへの応用を目指した基礎研究が盛んになっていることを示しています。

具体的な論文事例として、以下のようなものがあります。

  • Biohybrid Microrobots Based on Jellyfish Stinging Capsules as Nanoinjectors(クラゲの刺胞を利用したナノインジェクター搭載バイオハイブリッドマイクロロボット)

    • 2025年に発表されたこの研究では、クラゲの毒針(刺胞)を注射器のように使うバイオハイブリッドマイクロロボットが開発されました。磁石で操作して目的の場所に到達させ、触れることで薬を注入できます。生体になじみやすく、精密な薬の運搬や細胞の操作に応用が期待されています。
  • A modular organic neuromorphic spiking circuit for retina-inspired sensory coding and neurotransmitter-mediated neural pathways(網膜に着想を得た感覚符号化と神経伝達物質を介した神経経路のためのモジュール式有機ニューロモーフィックスパイク回路)

    • 2024年に発表されたこの論文では、有機的な神経細胞と、神経伝達物質で動くバイオハイブリッドなシナプスを組み合わせて、網膜のような神経回路が作られました。光の刺激で情報を処理したり、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質を使って神経の活動を調整したりと、生物の学習や記憶の仕組みを模倣したデバイスです。

さらに詳しい情報はレポートで

今回の記事で紹介しきれなかったバイオハイブリッドシステムに関する研究資金(グラント)の動向分析や、全体のまとめについては、アスタミューゼ株式会社のウェブサイトで公開されている詳細レポートでご確認いただけます。

詳細レポートはこちら

アスタミューゼ株式会社では、今回ご紹介した「バイオハイブリッドシステム」だけでなく、様々な最先端技術に関する分析を行っています。研究開発戦略や事業戦略の構築に役立つ、将来の予測や機会・脅威の把握が可能です。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。

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