導波路型光デバイスで世界最高品質のスクイーズド光生成に成功:光量子コンピュータ実用化へ大きく前進

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NTT、東京大学、理化学研究所、OptQCの4機関は、導波路型光デバイスを用いたスクイーズド光の生成において、世界最高品質となる10.1 dBの量子ノイズ圧縮に成功しました。この成果は、光量子コンピュータの実現に向けた重要な一歩となります。スクイーズド光は、光量子コンピュータをはじめとするさまざまな光量子技術の基盤となる光です。特に、広帯域で高いレベルの量子ノイズ圧縮がされた高品質なスクイーズド光は、光量子コンピュータを実用化するための最も重要なリソースと言えます。

光量子コンピュータは、その大規模な計算能力と高速性、そして光通信技術との相性の良さから、世界中で開発競争が激化している量子コンピュータの中でも特に注目されています。今回の技術により、将来的にIOWN技術と融合した高速な光量子コンピュータが実現し、AIにおけるニューラルネットワークの応用や、誤りに強い量子コンピュータの実現が大きく加速すると期待されています。

この研究成果は、2026年2月25日(米国時間)に米国科学論文誌Optics Expressのオンライン版に掲載されました。

スクイーズド光とは?光量子コンピュータになぜ必要?

スクイーズド光とは、光の持つ「量子ノイズ」と呼ばれる不確実性を特殊な方法で圧縮した光のことです。光の電磁波には、正弦(sin)成分と余弦(cos)成分があり、通常はどちらも同じくらいの量子ノイズを持っています。スクイーズド光では、このうち片方のノイズをぎゅっと圧縮し、もう片方が少し増えるような状態を作り出します(図1(a)参照)。

スクイーズド光の概念図とスクイージングレベルの進展

このノイズの圧縮度(スクイージングレベル)が高ければ高いほど、光量子コンピュータはより少ない誤差で正確な計算ができるようになります。また、広帯域なスクイーズド光を使うことで、計算を速くしたり、一度に扱える量子ビットの数を増やしたりすることが可能になります。

連続量光量子コンピュータのメリット

「連続量光量子コンピュータ」は、通常のコンピュータが0と1のデジタル情報を使うのに対し、光の波の性質(アナログ値)を使って情報を扱います。この方式は、装置を大きくせずに大規模な計算に対応できることや、消費電力が比較的少ないことが期待されています。さらに、光通信技術と相性が良いため、高速な量子計算が可能となり、将来のIOWN技術の発展とともに、さらに進化していくと考えられています。

高いスクイージングレベルが拓く未来

より高いスクイージングレベルは、光量子コンピュータの性能を飛躍的に向上させます。

  • 誤り耐性型量子コンピュータの実現: 例えば、「GKP量子ビット」という特殊な方法で情報を符号化する誤り耐性型量子コンピュータでは、10 dB(デシベル)もの高いスクイージングレベルが求められます。これが実現すれば、より複雑な符号化技術と組み合わせることで、現実的なレベルで誤りを訂正できるようになります。

  • ニューラルネットワークへの応用: 光量子コンピュータは、AIの分野で使われるニューラルネットワークのようなアナログ計算への応用も期待されています。高いスクイージングレベルは、実用的なニューラルネットワークがより効率的に最適な解を見つけることを可能にすると言われています。

光量子コンピュータ構成図とスクイーズド光源

世界最高品質を実現した技術のポイント

今回の成果は、主に二つの技術的な進歩によって達成されました。

①周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路の最適化

NTTはこれまで、広帯域なスクイーズド光を生み出すための「周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路」という光デバイスの性能向上に取り組んできました。2021年には、この導波路自体の光の損失を減らすことに成功しましたが、導波路から出てくるスクイーズド光の形をうまく制御できていませんでした。

スクイーズド光を測定したり、量子もつれという別の量子状態を作り出したりするには、その光の空間的な形が、他の光と干渉しやすい「真円」に近い形であることが望ましいです。今回の研究では、導波路の設計と製造プロセスを最適化することで、スクイーズド光の形を扱いやすい真円に近づけることに成功しました。

②量子光位相制御技術の刷新

高いスクイージングレベルのスクイーズド光を正確に測定するためには、測定に使う基準となる光との相対的な「光の位相(波のタイミング)」を厳密に合わせる必要があります。これまでの方法では、スクイーズド光を生成する際に、一部の光を分岐させて位相同期のための信号を取り出していました。しかし、この方法だと、位相同期の精度を上げようとすると、スクイーズド光自体が分岐によって劣化してしまうという問題がありました。

位相同期手法の比較

この課題を解決するため、研究チームは新しい位相同期手法を開発しました。具体的には、スクイーズド光を生成する非線形媒質(PPLN導波路)に入る前の段階で、励起光と基準光を分岐させ、位相同期信号を生成するために別の非線形媒体を使うようにしました。これにより、量子光の損失をなくしつつ、位相同期信号の強度を大きくすることが可能になり、従来よりも低損失で高精度な測定システムを構築できました。

10.1 dBの量子ノイズ圧縮を達成

これらの技術を組み合わせることで、光通信で使われる波長帯において、10.1 dBという高いレベルの量子ノイズ圧縮が観測されました。これは、広帯域なスクイーズド光を生成できる導波路型光デバイスとしては世界で初めて、光が持つ本来の量子ノイズを90%以上も圧縮したことを意味します。この画期的な成果は、光量子コンピュータの性能を大きく向上させるものとなります。

スクイーズド光の測定結果

各機関の役割

  • NTT: スクイーズド光源の設計・作製およびスクイーズド光測定を担当しました。

  • 東京大学: スクイーズド光測定および実験システム全体の設計・構築を担当しました。

  • 理化学研究所: 実験と理論に関する議論に貢献しました。

  • OptQC: 実験と理論に関する議論に貢献しました。

今後の展望

今回の技術は、光量子コンピュータの計算精度を高め、政府が掲げるムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の達成に大きく貢献します。研究チームは今後、この成果を導入した量子コンピュータを実現し、2027年には1万量子ビットの量子コンピュータの実証を目指しています。

関連情報

論文情報

  • 雑誌名: Optics Express

  • 題名: Generation of 10-dB squeezed light from a broadband waveguide optical parametric amplifier with improved phase locking method

  • 著者名: Kazuki Hirota, Takahiro Kashiwazaki, Gyeongmin Ha, Taichi Yamashima, Pawaphat Jaturaphagorn, Takumi Suzuki, Kazuma Takahashi, Akito Kawasaki, Asuka Inoue, Warit Asavanant, Mamoru Endo, Takeshi Umeki, and Akira Furusawa

  • DOI: 10.1364/OE.585323

  • URL: https://opg.optica.org/oe/fulltext.cfm?uri=oe-34-5-7958

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業 ムーンショット目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の研究開発プロジェクト「誤り耐性型大規模汎用光量子コンピュータの研究開発(JPMJMS2064)」の支援を受けて行われました。

関連する過去の報道発表

用語解説

  • 導波路型光デバイス: 光を特定の方向に閉じ込めて伝えることができる光部品のことです。光ファイバもこの一種です。この研究で使われた導波路型の光パラメトリック増幅器は、光を強く閉じ込めることで、広範囲な周波数で非線形光学効果という特殊な光の反応を起こすことができ、広帯域なスクイーズド光の生成を可能にしました。

  • 連続量光量子コンピュータ: 通常の量子コンピュータが0と1の重ね合わせで情報を扱うのに対し、光の波の強さや位相といったアナログ値の重ね合わせで情報を扱う量子コンピュータです。特に光の直交位相振幅に情報を載せます。

  • GKP量子ビット: 「ゴッテスマン・キタエフ・プレスキル量子ビット」の略称で、連続変数量子システム(例:量子調和振動子)において、位相空間上に格子状に符号化された量子ビットです。位置や運動量の小さなずれ(ノイズ)に対して強い耐性を持つ誤り訂正が可能になるため、誤り耐性型量子情報処理の基盤として研究されています。

  • 周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)導波路: ニオブ酸リチウムという強誘電体の結晶でできており、その結晶の分極(電気的な向き)が光の進む方向に沿って周期的に反転するように作られた光デバイスです。この周期的な構造によって、非線形光学効果が強められ、さまざまな光技術に応用されています。

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