DEEPNOID、医療AIソリューションにFuriosaAIのNPU導入へ:運用コスト最適化とサービス拡大に期待
医療AIソリューションを開発するDEEPNOID(ディープノイド)は、AI半導体メーカーFuriosaAI(フリオサエーアイ)のNPU(神経網処理装置)導入を進めています。この取り組みは、運用コストの最適化とサービス応用の拡大を目指すものです。

DEEPNOIDのキム・テギュ専務は、FuriosaAIのNPU採用について、「FuriosaAIは第1世代半導体『Warboy(ウォーボーイ)』の量産実績があり、信頼性の高い製品調達が可能と判断しました。さらに、第2世代半導体『Renegade(RNGD)』の大規模言語モデル(LLM)処理能力を、当社のAI機能『M4CXR』に活用できると期待しています。来年以降はRNGDを活用し、LLMの代替にとどまらず、画像認識AI機能としても導入を拡大し、コスト削減と市場性の両立を図りたいと考えています」と述べています。
DEEPNOIDの医療AIソリューション「M4CXR」とは
DEEPNOIDは2008年にソフトウェア企業として創業し、2015年からディープラーニング技術開発に本格的に取り組んできました。2021年8月にはKOSDAQに上場し、医療画像分野での技術力が評価されています。
同社の主要ソリューションの一つが「M4CXR」です。これは胸部X線データをAIが解析し、読影所見書のドラフトを自動で作成するソリューションです。

これまでに、脳動脈瘤検出や大腸がん、腎がん、胃がん分析・検出技術などを開発してきた実績があります。その技術を基に、AIベースの胸部X線診断支援ソリューション「DEEP:CHEST」を開発し、現在はM4CXRへと機能を高度化しています。
他にも、脳MRA向けの「DEEP:NEURO」や肺疾患対応の「DEEP:LUNG」といった医療AIサービスを展開しています。特にDEEP:NEUROは革新医療機器に指定され、非保険診療でも診療報酬が認められています。産業用X線向けの「Skymaru:Security」などのソリューションも手掛けています。

DEEPNOIDの強みは、生成AIを用いて読影所見書のドラフトを作成する技術です。2023年から胸部X線向け生成AI技術に関する論文を執筆中で、今年は臨床試験を終え、食品医薬品安全処のデジタル医療機器認可手続きを進めています。肺疾患だけでなく、気管支、心臓、胸壁、骨、その他臓器まで総合的に評価できる点も特徴です。
GPUからNPUへの転換:運用コスト削減と電力効率の向上
医療分野での生成AI活用はまだ新しい印象がありますが、DEEPNOIDは昨年108億ウォンの売上を記録するなど成長を続けています。そのため、AI演算コストや単価への意識も高いです。
現在、AI演算にはNVIDIAのA100 GPUを使用していますが、情報通信産業振興院(NIPA)が推進する「AI半導体応用実証支援事業」の支援を受け、FuriosaAIのNPUへの置き換えを進めています。

ヒョン・ジフン研究所長は、「この事業は2年間続くもので、初年度はM4CXRの一部機能をFuriosaAIのNPUに置き換え、来年度は新たに開発するCT読影ソリューションにもNPUを適用する計画です」と説明しています。
DEEPNOIDがGPUではなくNPUに注目する理由は、NPUがLLM(大規模言語モデル)などの処理において、GPUに比べて高い性能と電力効率を発揮する点にあります。初期導入コストはGPUと同等か競争力のある水準であり、運用段階では電力コスト削減効果が明確に表れるとのことです。ただし、最適化には多くの開発が必要となるという課題もあります。
ヒョン研究所長は、「専門試験機関を通じてFuriosaAIのNPUを用いた電力消費、処理速度、精度の実証を終えました。その結果、NPUを使用した場合、NVIDIA H100 GPUと比べて電力効率が高く、TCO(総所有コスト)が2倍以上削減されることを確認しました」と、実証結果への高い評価を示しています。

国内外での実証とグローバル展開
DEEPNOIDが進めるAI半導体応用実証支援事業の目的は、M4CXRの実運用実証です。梨花女子大学ソウル病院、ソウル市立ボラメ病院、仁荷大学病院が実証病院として選定されており、各病院がクラウドを通じてM4CXRにアクセスし、実際の医療現場での活用事例を構築します。

キム専務は、「当初の目標は3病院ですが、事業期間中にさらに多くの実証機関を確保したいと考えています。国内の一次医療機関や公的医療機関に加え、フィリピンやベトナム、中東など海外地域への導入も視野に入れて準備を進めています」と語っています。
すでに成果も出ており、6月17日には欧州胸部画像医学会が主催するESTI 2025において、DEEPNOIDのM4CXRによる生成AIベースの胸部X線読影所見書ドラフト生成性能を評価した研究が、「最優秀口演発表賞(Best Oral Presentation – Magna Cum Laude)」に選ばれました。この研究では、85%の有意な診断精度と、平均3.4秒という読影所見書ドラフト作成速度が記録されています。
FuriosaAIのNPUは、M4CXRにおける読影所見書ドラフト生成用のLLM処理を担う予定です。ヒョン研究所長は、「今後NPU適用の過程でFuriosaAIから多くの技術支援を受けることになるでしょう。LLM演算については大きな不安はなく、来年RNGDに画像認識機能が強化されれば、GPU代替をさらに進める計画です」と述べています。
モデル量子化とは、AIモデルのサイズを縮小し、効率的に動作させるための工程です。NVIDIA GPUは業界標準ですが、NPUは導入事例がまだ少なく、量子化プロセスが容易ではないという側面があります。しかし、FuriosaAIはPyTorch対応から量子化、モデル配布、推論アプリケーション生成までを包括的に支援するSDKを提供しており、これを活用することでGPU代替も十分に可能だと考えられています。
グローバル市場への展望とAIエコシステムへの貢献
NPU導入は、DEEPNOIDの海外展開にも有利に働くと考えられています。ヒョン研究所長は、「利用者はサービスがGPUかNPUかを意識せず、価格と運用コストだけを見ます。NPUによって運用コストが下がれば、その分利用拡大や顧客獲得につながります」と語っています。
DEEPNOIDは、来年2月にドバイで開催される「World Health Expo(WHX 2026)」、4月に日本で開催される「国際医用画像総合展(ITEM 2026)」にM4CXRを出展し、国産NPUによるLLM処理で読影所見書が生成される点を積極的にアピールしていく予定です。

キム専務は、「クラウド型サービスである点が重要です。海外での展開や投資、運用を最適化でき、導入スピードも速いです。ドバイ法人を拠点に北アフリカまで視野に入れ、東南アジアもベトナム、フィリピンを皮切りにシンガポール、マレーシアへと拡大していきます」と述べています。
FuriosaAIの国際的な認知度向上も、DEEPNOIDの事業拡大を後押しする要因です。FuriosaAIは2025年に「KBスターターズ・シンガポール」に選定され、現地でのネットワーク構築支援や投資連携、グローバル・オープンイノベーションプログラムに参加しています。また、APEC首脳会合や世界最大規模の放射線医学会「RSNA 2025」でも、商用化段階に入ったRNGDを紹介しており、その知名度向上はDEEPNOIDのアジア市場進出において大きな追い風となるでしょう。
国内AIエコシステムへの問題提起

DEEPNOIDのNPU導入は、単なるコスト削減にとどまらず、国内AIエコシステム全体への問題提起でもあります。ヒョン研究所長は、「AI業界におけるNPU導入はまだ初期段階で、開発者はGPUに慣れています。NPUへ転換するには努力とコストがかかりますが、RNGDは数値的にはGPUを代替し得る性能を示しており、積極的に試す価値があると考えています」と語っています。
キム専務は、「2015年当時、GPUは100万ウォン台でしたが、現在は数千万ウォンに達しています。NVIDIAの独占構造が続けば、価格はさらに上昇するでしょう。国産・外産を問わずNPUの量産が拡大してこそ市場は形成されます。DEEPNOIDはその可能性をFuriosaAIに見ており、その役割を十分に果たせると考えています」と述べ、AI半導体の多様化と市場競争の重要性を強調しました。

