東京理科大学と東北大学の共同研究グループが、これまでの燃料電池が抱えていた「高温でしか動かない」という課題を解決する可能性のある新しい材料を開発しました。この材料は、200℃から550℃という比較的低い温度(中温域)で、非常に高い効率で電気を通す性質を持つ「酸化物超イオン伝導体a軸配向SDC電解質膜」です。
なぜ中温で動く燃料電池が求められているのか
現在使われている多くの固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、効率よく発電するために700℃以上のとても高い温度で動かす必要があります。しかし、これではコストがかかったり、使える場所が限られたりするという課題がありました。そこで、もっと低い温度で動かせる、つまり「中温作動型」のSOFCを実現するための材料開発が世界中で進められています。
開発された新材料「a軸配向SDC薄膜」のすごい性能
研究グループが今回開発したのは、「a軸配向Sm3+ドープCeO2(SDC)薄膜」という新しい電解質材料です。電解質とは、電気を通す物質の中でも特にイオン(電気を帯びた原子や分子)だけを効率よく通す役割を果たす部分を指します。このSDC薄膜は、酸化物イオン伝導率が10^-2 S/cmを大きく超えるという、世界最高水準の性能を中温域で達成しました。
さらに、この材料の「イオン輸率」は0.96に達することが確認されました。イオン輸率とは、材料が全体として電気を通す能力のうち、イオンが電気を運ぶ割合のことです。この数値が高いほど、電気を運ぶほとんどがイオンによるもので、電子(マイナスの電気を持つ粒子)が余計な電流として流れてしまうことが少ない、純粋なイオン伝導体であることを示しています。

なぜこんなに高い性能が出せるのか
研究グループは、このSDC薄膜がなぜこれほど高い性能を発揮するのかを詳しく調べました。その結果、主に以下の3つの要因が明らかになりました。
- 大量の酸素空孔:材料の中に「酸素空孔」と呼ばれる酸素原子が抜けた場所がたくさんあることで、酸素イオンが効率よく移動できるようになります。
- 電子伝導の抑制:材料が持つエネルギーの性質(エネルギーギャップ)によって、電気を運ぶ電子の流れがほとんどなくなり、純粋にイオンだけが電気を運ぶことができます。
- 強いクーロン反発:材料を構成するセリウム原子の電子同士が強く反発し合うことで、イオンが移動しやすい環境が作られます。
これらの特徴によって、SDC薄膜は中温域で優れたイオン伝導性を実現しているのです。

今後の応用と期待
今回の研究成果は、中温で動く次世代の固体酸化物形燃料電池(SOFC)や、電気を蓄えたりスイッチとして機能したりする「全固体電気二重層トランジスタ」、さらには「AI素子」など、さまざまな分野での材料開発に大きく貢献すると期待されています。
東京理科大学の樋口教授は、「多量の酸素欠陥を持つSm3+ドープCeO2の配向膜を作製できれば、実用水準の酸化物イオン伝導度を実現できると考え、本研究に至りました。本研究成果により200 ~ 550℃の中温域で動作するSOFCおよびAI素子に適用できる全固体電気二重層トランジスタの電解質材料としての応用が可能です」とコメントしています。
この研究は、より効率的で環境に優しいエネルギーシステムや、これからのAI技術の発展を支える基盤となるでしょう。
論文情報
本研究成果は、国際学術誌「Journal of the Physical Society of Japan」にオンライン掲載されました。
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雑誌名: Journal of the Physical Society of Japan
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論文タイトル: Oxide Superionic Conductivity of a-Axis-Oriented Ce0.75Sm0.25O2-δ Thin Film on Yttria-Stabilized Zirconia Substrate
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著者: Ryota Morizane, Riku Tabuchi, Daisuke Shiga, Hiroshi Kumigashira and Tohru Higuchi
詳しい情報については、東京理科大学のウェブページもご参照ください。

