はじめに:AIの新たな協力体制
AI技術の進化が目覚ましい現代において、企業が直面する複雑な課題を解決するために、異なる強みを持つAIが手を取り合う動きが加速しています。
この度、AIソリューションの開発・提供で知られる株式会社FRONTEO(以下、FRONTEO)と、HR(人事・労働市場)領域のAIソリューションに強みを持つ東京大学松尾研発スタートアップのBAKUTAN株式会社(以下、BAKUTAN)が、新たなAIソリューションの共同開発と先行実証をスタートしました。

今回の取り組みのポイント
この共同開発の大きな特徴は、両社のAIがそれぞれの得意分野を活かして協力する点にあります。
具体的には、BAKUTANが開発した生成AIを活用したヒアリングに特化した対話型AIモジュール「Q(キュー)」が、データの収集や入力のサポートを担当します。一方、FRONTEOが開発したAI「KIBIT」は、集まったデータを非常に高い精度で分析し、重要な情報や隠れたパターンを発見する役割を担います。
このように役割を分担することで、一般的な生成AIだけでは難しいとされていた、専門性が高く、かつ信頼できる経営判断のサポートを実現しようとしています。

共同開発の目的と目指すもの
この取り組みの主な目的は、企業に眠る「非構造データ」を最大限に活用することです。
非構造データとは、営業日報や会議の議事録、人事に関するアンケート結果など、決まった形や項目を持たないテキスト形式のデータのことです。これらのデータを「Q」が効率的に集め、「KIBIT」が高精度に分析することで、以下のような貢献を目指します。
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新しいビジネスチャンスや、将来起こりうるリスクの早期発見
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人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、その価値を最大化する「人的資本経営」へのヒントの創出
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経営判断をより高度にするための「経営インテリジェンス」の強化
先行実証では、営業、人事、ナレッジマネジメント(知識の管理)といった幅広い分野で使えるモジュール型のソリューションを開発し、2026年中に10社以上でのPoC(概念実証)導入を目標としています。この実証の結果を踏まえ、正式な製品リリースが計画されています。
両社のAI技術について
FRONTEOの「KIBIT」
FRONTEOの「KIBIT」は、専門家の持つ「暗黙の知識」をAIが学び、膨大な言語情報を高速かつ高精度に分析することで、意思決定をサポートするAIです。リスク調査や予兆発見など、多岐にわたる分野で多くの実績があります。
特に金融機関では、大手銀行グループの100%、大手証券会社の80%で導入されています。「KIBIT」は、一般的な生成AIとは異なり、専門分野の知識や判断基準を反映した独自のアルゴリズム設計により、専門家が安心して使える高い信頼性を実現しています。
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KIBITの技術は以下の分野で社会実装されています。

BAKUTANのヒアリングAI「Q」
BAKUTANは、HR領域を中心に非構造データの活用に関する豊富な知識を持っています。社内に散らばる非構造データをAIが使える形にする「AI-Ready化」の支援や、AIエージェントの開発などに取り組んでいます。
特に、ヒアリングに特化したAI「Q」は、柔軟な対話設計とデータ入力支援に強みがあり、社員への問いかけを通じて思考や経験を言語化し、人材育成や組織改善に役立てる手法を得意としています。
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なぜ今、この連携が必要なのか
最近の「大規模言語モデル(LLM)」の発展により、生成AIは急速に進化しています。しかし、生成AIをビジネスや経営判断に使う際には、出力結果の「信頼性」や「説明責任」といった課題が指摘されています。
特に、法務や人事戦略、新薬開発といった高度な専門性と正確さが求められる分野では、汎用的な生成AIの結果だけに基づいて意思決定をすることは慎重に行う必要があります。
また、営業活動や採用、人材の能力を最大限に引き出す「タレントマネジメント」といったHR領域では、多くの知識や記録が非構造データとして社内に散らばっており、AIを活用するための「データの量と質」が十分に確保できていないケースが多く見られます。そのため、AI活用以前にデータそのものの整備が大きな課題となっています。
このような背景から、両社のAIが連携し、それぞれの強みを補い合うことで、これらの課題を解決しようとしています。
具体的な活用イメージ
営業領域での適用例
営業日報や商談レビュー、議事録などの非構造データを、新開発のAIが自動で収集・分析し、以下のような情報を提供します。
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案件の成功する可能性やリスクの早期発見
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利益につながりやすい案件のパターンを見つけ出し、初期段階で優先順位を判断
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営業担当者ごとの成功ノウハウや知識を明確にする
HR領域での適用例
従業員のエンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)調査、業務日報、上司と部下の面談記録(1on1)、インタビューなど、従業員のリアルタイムなデータを新開発のAIが自動で収集・分析し、以下のような情報を提供します。
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離職やメンタルヘルスの問題が起こる可能性の早期診断
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従業員が持つスキルや経験を一覧で分かりやすく表示
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高い成果を出す人材の共通パターンを分析し、明確にする
今後の展望
FRONTEOとBAKUTANは、このソリューションの早期社会実装を進めるとともに、営業や人事の領域にとどまらず、企業活動で発生する様々な非構造データを対象とした新たな活用方法(ユースケース)の創出を目指します。
「KIBIT」と「Q」がそれぞれの強みを活かし、補い合う形で活用されるモデルを確立することで、AI技術が「実際に役立つ形」で社会に広がることを加速させていく方針です。
用語解説
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先行実証: 本格的な製品やサービスを提供する前に、実際の業務に近い環境で、技術やソリューションがどれくらい有効で実用的なのかを試す取り組みです。
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ヒアリング: 特に、社員への質問を通じて、考えや経験を継続的に言葉にして記録し、人材育成やマネジメント、組織改善に活用する手法を指します。
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非構造データ: 形や項目が一つに定まらない、テキストなどの形式のデータのことです。
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人的資本経営: 経営において、人材を「コスト」ではなく「資本」と捉え、その価値を長期的に高めることで、企業の価値向上を目指す考え方です。
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経営インテリジェンス: 企業の内外にある様々なデータや知識を集めて分析し、経営判断や戦略を立てることをより高度にするための仕組みや活動全般を指します。
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AI-Ready化: AIを効果的に活用できる状態に、組織、業務、データ、人材を整えることを意味します。
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タレントマネジメント: 従業員(タレント)を企業の重要な資源と捉え、採用から育成、配置、評価、活躍支援、後継者育成までを戦略的に行う人材管理の考え方や仕組みのことです。

