AIが目の難病「網膜色素変性症」患者の将来の視力を予測する新モデルを開発

機械学習・深層学習

AIで目の難病「網膜色素変性症」の将来の視力を予測

千葉大学大学院医学研究院の研究グループは、進行すると失明に至る可能性のある遺伝性の指定難病「網膜色素変性症(Retinitis Pigmentosa、以下RP)」について、AI(人工知能)を活用した新しい診断・予測モデルを開発しました。

このモデルは、患者さんの「眼底写真」という目の奥の写真をAIに学習させることで、RPの診断だけでなく、数年後の視力低下を高い精度で予測できることを明らかにしました。

大規模深層学習によるRP診断モデル、RP患者の視力予後予測モデル開発の概要

研究の背景:進行速度に個人差がある難病

RPは、目の奥にある「網膜」という部分の細胞が少しずつ傷つき、視力や視野が低下していく病気です。最終的には失明に至ることもありますが、その進行の速さや重さは患者さんによって大きく異なります。

現在、RPに対する根本的な治療法はありません。そのため、残っている視力を最大限に活用する「ロービジョンケア」という取り組みが重要になります。このケアは、視力が低下する前に始めることで、より高い効果が期待できると考えられています。しかし、これまでRP患者さんの将来の視力について、中長期的に予測することは難しいとされてきました。

研究の成果:AIが高精度な診断と予測を実現

研究グループは、すでに開発されている大規模な深層学習モデル(AIの一種で、たくさんのデータを学習して特徴を見つけ出す技術)をベースに、RPを診断するモデルを作り上げました。

この診断モデルは、眼底写真からRPを非常に高い精度(AUCという指標で0.94)で識別できることが示されました。熟練した眼科医でも、眼底写真だけからRPの診断につながるごくわずかな変化を見つけるのは難しいとされており、このAIモデルは医師の診断を強力にサポートするツールとなるでしょう。

さらに、眼底写真と過去の視力データをAIに学習させることで、RP患者さんの視力予後予測モデルを開発しました。このモデルは、眼底写真撮影後500日から1,400日の間に起こる視力低下を、安定して高い精度(平均時間依存性AUCで0.82)で予測できることが判明しました。深層学習を用いたRP患者さんの視力予後予測は今回が初めての試みであり、患者さんの状態に合わせた早期の治療や支援の実現に貢献すると期待されます。

また、AIが画像のどの部分に注目して診断や予測を行っているかを「ヒートマップ」という形で可視化しました。その結果、診断と予後予測でAIが注目する網膜の領域が異なることが分かりました。AIの判断根拠が明らかになることで、モデルの信頼性が高まるだけでなく、RPによる視力低下のメカニズム解明にもつながる可能性があります。

用語解説

  • EfficientNetB4:画像を解析する深層学習モデルの一つ。医療画像の診断に必要な細かい特徴を効率よく捉えることができるため、研究で広く使われています。

  • 時間依存性AUC分析:将来、病気が発症するまでの時間などを予測するモデルの精度を、時間の経過も考慮して評価する分析方法です。

  • AUC(Area Under the Curve):AIモデルが物事を正しく分類できる能力を示す指標で、0から1の間の値をとります。1に近いほど、分類の正確さや識別能力が高いことを意味します。

  • ヒートマップ:データの「強さ」や「重要度」を色の濃淡や違いで表現する図です。今回の研究では、AIが眼底画像のどの部分に注目して診断や予測を行ったかを、色の濃さで分かりやすく示しています。

今後の展望

今回開発されたRP患者さんの視力予後予測モデルは、将来的に視力喪失が予想される患者さんに対して、より早く治療を始めるきっかけとなる可能性があります。これは、RPの診療において、医師が治療方針を決める際の新しい手助けとなる基盤を築くことにつながると期待されています。

また、AIがどのように判断したのかが可視化されたことで、RPによる長期的な視力低下のメカニズムを解き明かす手がかりにもなると考えられます。今回の研究は、一つの施設で集められたデータに基づいているため、今後はさらに多くのデータを使って、このモデルが実際の医療現場で使えるかを検証していく予定です。

本研究成果は2026年1月8日に、国際科学誌npj Digital Medicineでオンライン公開されました。

  • 論文情報:

    • タイトル:Leveraging large scale deep learning models for diagnosis and visual outcome prediction in retinitis pigmentosa

    • 著者:Tatsuya Nagai, Koya Homma, Yuto Kawamata, Masahito Yoshihara, Eiryo Kawakami, Takayuki Baba

    • 雑誌名:npj Digital Medicine

    • DOI:10.1038/s41746-025-02311-9

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